七瀬先生、ここから先は違法です
第五話 運命が変わる満月
――ガチャガチャ。
ドアノブが回されて響きわたる金属音が止まる。
近づいていた足音が遠ざかる。
警備員さんはドアノブを回したけれど、鍵がかかっていて開かなかったようだ。
警備員に見つかる心配はなくなり、ほっとする夏鈴。
夏鈴(ドアの鍵がかかっててよかった。でも……私は鍵かけてないし、誰がかけたんだろう?)
七瀬「はあー、危なかったな。念のため鍵かけててよかったー」
鍵をかけた犯人は七瀬先生だった。
夏鈴が天体望遠鏡の動作確認をしている時に、鍵を閉めていた。
七瀬先生は深いため息を吐いて安堵している。
夏鈴「先生っ! 許可取ってないってどういうことですか?!」
七瀬「あー、許可取れなかったんだよ」
夏鈴「ええ、」
七瀬「正式な顧問になるのは、明日の職員会議の後からだから」
七瀬先生は悪びれた態度もせず言い放つ。
夏鈴(許可取ってないって……七瀬先生と私は、不法侵入してるってこと?!)
夏鈴「許可取ってないって……だったら、なんで今日見ようって言ったんですか?!」
七瀬「観測したかったんだろ?ストロベリームーン」
夏鈴「……」
去年はタイミングが合わずに観測会に参加できなかった夏鈴は、ずっとストロベリームーンを観測するのを楽しみにしていた。
七瀬「天文部の活動予定表や日誌を見たら、水原の字でストロベリームーンについて、特に熱心に書いてあったからさ……見たかったのかなって」
夏鈴「そ、それは、確かに見たかったですけど……。って、なんで私の字だってわかったんですか?」
七瀬「水原の字だったら一目見てわかるし、水原のことなら、何でも知ってるけど?」
夏鈴「……なっ、」
七瀬先生の言葉に、夏鈴は動揺する。
恥ずかしさを隠すように早口で言葉を続ける。
夏鈴「き、許可取ってないなんて……」
七瀬「許可取れないって言ったら、水原は諦めるだろ?」
夏鈴「それは……当たり前です」
七瀬「来年観れるかどうかなんて分からない。……だから水原に見せたかったんだ」
夏鈴(そんなこと言われたら、なにも言い返せない……)
七瀬先生が夏鈴のことを考えてした行動だと思うと、嬉しくなってしまう夏鈴。