七瀬先生、ここから先は違法です

〇翌日 学校までの通学路(朝)

 半袖のYシャツにブルーリボン、チェック柄のリボンと同色のスカートに身を包む。

 見慣れた通学路を歩きながら、昨日の記憶が夏鈴の頭の中を支配していた。


夏鈴(昨日の七瀬先生は、なんだったんだろう。……もしかして、夢? そうだよね。あの七瀬先生が私にプロポーズなんてするはずないもの)


〇回想 普段の七瀬先生を思い浮かべる


 18歳の誕生日に7本のバラを渡された。
 7本のバラの花言葉は"ひそかな愛"

 送り主は、七瀬 一咲(ななせ いっさ)
 高校教師。七瀬先生は春から着任した新卒の先生で、夏鈴のクラスの副担任である。


 七瀬先生の第一印象は怖いと思った。
 切れ長の奥二重に高い鼻。誰が見てもかっこいいと思う容姿。控えめに染めた髪色は、周りの生徒の髪が真っ黒なので際立って大人に見える。

 そして、クラスメイトのまだまだ幼稚な男子しか見てこなかった夏鈴には、七瀬先生の色気は刺激が強すぎた。


 口数は少ないし愛想もなくて、どちらかというと生徒に嫌われそうなのに、七瀬先生の不思議な魅力は人を惹きつける。



夏鈴(生徒からも嫌というほどモテるのに……人気者の七瀬先生が、なんで私に7本のバラを渡してきたんだろう?)


 7本のバラの花言葉は『ひそかな愛』

夏鈴(その言葉の意味を理解した上で、冷静に考えて……あり得ない)


 先生に花束を渡された意味も、正装していた意味も、優しい笑みを浮かべていた理由も、なに一つ理解できなかった。

夏鈴(分かるはずがないよ……私の18年間生きてきた知識では到底答えは出なそうだ)



 花束を渡されたあの日、夏鈴は怖くなってその場から逃げ出すように家に戻った。

 なにか言いたげな先生を残したことに、罪悪感を感じなかったわけではない。罪悪感で胸が少し痛くなったけど、それよりも怖いという気持ちが勝ってしまった。


夏鈴(花束を渡された意味もわからないし、七瀬先生の優しい微笑みなんて見たことがなかったから、余計に怖くなったんだ。だって……仕方ないよ。訳わからないもん)



 (回想終了)
 
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