七瀬先生、ここから先は違法です
◯誰もいない空き教室
足早に足を進めて、人気のない空き教室に七瀬先生を押し込んだ。
七瀬「……水原って、結構大胆なんだな」
夏鈴「……ちがっ! 他の生徒がたくさんいるところで、話そうとするから……」
夏鈴を見下ろしながら、七瀬先生は悪戯な笑みを浮かべる。あまりの距離の近さに、どくん、と心臓が跳ねる。
夏鈴(……近い。なんか、良い匂いがする)
鼻にほのかに香る香水の匂いに酔いしれそうになる。
七瀬「俺の気持ち伝わった?」
夏鈴「……はい?」
七瀬「7本のバラの花言葉は知ってる?」
夏鈴「……ひそかな愛、……ですか?」
七瀬「正解。よくできました」
七瀬先生は、目を細めて嬉しそうに笑った。
夏鈴(七瀬先生が笑うところ初めて見た。いつも眉間に皺を寄せて、不機嫌そうにしてる顔しか知らない……)
七瀬「そういうことで、結婚の日取りはとりあえず、卒業してから……」
夏鈴「ちょ、ちょっと待ってください」
勝手に話を進めるので、夏鈴は焦って止めた。
七瀬「もう待てない、ずっと待ったんだから」
先生の顔は真剣で、冗談で言っているようには見えない。
夏鈴「そんな……七瀬先生が、私になんて……あり得ない。今までそんな素振りなかったし……いきなりすぎて……」
七瀬「そりゃあ、法に触れないために、誕生日がくるまで待ってたからな。……水原は今何歳?」
夏鈴「……18歳」
七瀬「日本の成人年齢は、何歳?」
夏鈴「……20歳から18歳に引き下げられました」
七瀬「よくできました」
夏鈴「……い、いや、でも……待ってください」
七瀬「今までは法に触れないために何も言えなかったし、言わなかったけど……やっと待ち望んだ日が来たんだ。もう待たない。これから俺は全力で落とすから……覚悟してろよ?」
思わず息を呑んだ。
七瀬先生のまっすぐな瞳に囚われてしまった夏鈴は、息を呑み固まることしかできなかった。
夏鈴の人生は普通が第一だった。
そんな夏鈴の普通だった日常が18歳。成年年齢を迎えた途端に変わり始めた。