七瀬先生、ここから先は違法です
第二話 七瀬先生は法に触れていない
◯誰もいない空き教室
七瀬先生は前触れもなく、生徒の夏鈴にプロポーズをしてきた。
先生の言葉が衝撃すぎて、夏鈴の中で時が止まった。息をするのを忘れてしまうほど驚いた。
夏鈴「……」
ハッとして息をすることを体が思い出した。
夏鈴「いや、えっと……全く理解が出来てません」
七瀬「なんで?花言葉の意味知ってたんだろ?」
夏鈴(7本のバラの花言葉は『ひそかな愛』。七瀬先生は私をずっと好きだったってこと?……そんなはずない……!)
夏鈴「は、花言葉の意味は理解できても、七瀬先生から花束をもらうことは理解できません……ましてや、結婚なんて……理解できるわけないです」
七瀬「水原の夫になりたいんだ。立候補者はまだいないだろ?」
夏鈴(そりゃ、いないけども……。プロポーズだって人生で初めてされたよ……)
言葉には出さずに心の中で悪態をついた。
夏鈴(なんか、少し感じてはいたけど……大人と話してるはずなのに、全く会話が成立していない気がする)
返す言葉が見つからなくて固まっていると、先生はお構いなしに言葉を続ける。
七瀬「俺はかなりの優良物件だぞ?仕事は福利厚生もしっかりしてる高校教師。親御さん受けもいいぞ?」
夏鈴「……先生、捕まりますよ?」
夏鈴が顔を俯いた一瞬で、距離がぐっと詰められてた。夏鈴より遥かに大きい七瀬先生は腰を折って、夏鈴の顔を覗き込んでいる。
七瀬「だから、成人するまで大人しく待ってたって言っただろ?成人年齢が引き下げられたのも……俺の愛が法律を変えたんだ」
夏鈴(……そんなことで法律が変わるはずない。七瀬先生は何を言ってるんだろう)
夏鈴「み、未成年じゃなくなって法律的に捕まらなくても、教師としてはダメですよね?……生徒に手を出すなんて」
七瀬「分かってる。だから、合法的に愛を伝えるだけ」
夏鈴「……はい?」
七瀬「絶対に手は出さないし、法律に反するようなことは絶対しない。水原が嫌なら、卒業まで指一本でさえ触れたりしない」
夏鈴「手を出さなくても、先生が生徒を口説くなんて……常識的にダメだと思います」
七瀬「口説く?俺の愛をそんな言葉で片付けるなよ」
夏鈴「……」
七瀬「教師は好きな人に、愛を伝えただけで、捕まるのか?」
夏鈴「いや、だから……教師の立場上、生徒に愛を伝えたらだめですよね?」
七瀬「そんなこと、刑法の何条に書いてあんの?」
夏鈴(子供みたいな屁理屈並べて……この人が、あの七瀬先生だとは到底思えない)
夏鈴(この人……別人なんじゃないかな?)
思わず七瀬先生を直視して固まる。