七瀬先生、ここから先は違法です
七瀬「はよーございまーす」
教室のドアが開く音と共に、談笑していたクラスメイトの視線は教室の前のドアへと移される。
教師とは思えない気だるげそうに、ボソッと挨拶をしながら、教室へ入ってきたのはこのクラスの担任ではなく、副担任の七瀬先生だった。
ほとんど担任の先生が朝のホームルームをするので、七瀬先生がくることは珍しい。
七瀬「……はあ、だる」
七瀬先生は軽いため息を吐きながら、表情は不機嫌丸出しで、終始だるそうにしている。
夏鈴(……この感じは、私の知ってる七瀬先生だ)
そう、七瀬先生はいつも気だるげそうで、なにごとにもめんどくさそうにして、やる気なんて言葉とは無縁に生きてそうな人種だった。
夏鈴が関わることのない人種。
これからも永遠に関わることはないと思っていた。
『好き』
『愛を伝える』
などと言うタイプとは真逆なのだ。
夏鈴(さっきまでの七瀬先生は、きっと夢か幻だ。こっちの先生が本物だ、うん)
何度も言霊のように頭の中で繰り返して、自分を納得させるのに必死だった。
そんな夏鈴に視線を向けて、七瀬先生は口角を上げて微笑みを浮かべた。
さっきのことがあったので、なるべく顔を合わせたくなかった夏鈴は重なる視線を逸らして顔を下げた。
生徒「おはよー」
生徒「七瀬先生、今日もだるそうだな」
生徒「今日は担任じゃなくて、いっさくんなの?」
教壇の前に立つ七瀬先生に、クラスメイトから挨拶や質問が投げかけられる。
夏鈴「……」
夏鈴は大人しい性格で、こういう時に口を開くタイプの人間ではない。黙って見届けているタイプの生徒だ。
顔を上げて黙って七瀬先生を見つめていると、視線が重なった。数分前のことを思い出して、ドクン、と心臓が飛び跳ねる。
七瀬「えー、今日は私事ですがー、お知らせがありますー」
七瀬先生は、夏鈴に視線を向けたまま言葉を放つ。
夏鈴(……な、なに?!なんで私を見ながら話すの?!)
夏鈴は嫌な予感がして、心臓が激しく波打つ。
夏鈴(ま、まさか、さっきのこと、言ったりしないよね?)
七瀬先生がみんなの前で何を言うのか、怖くて息を呑んだ。