若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「ワート様」
「なんだい、カレン」
「今まで、ごめんなさ……」

 もう癖になっているのだろう。キスをするようになってからも、カレンはこうやって謝ろうとしてくることがある。
 いつも通り、ジョンズワートはカレンの唇を自分のそれで塞いだ。
 離れる頃には、カレンはぽーっとしていて。
 そんな彼女を愛らしく思い、ジョンズワートは彼女の髪を撫でた。
 同じベッドを使い。ジョンズワートの腕の中で、カレンがくすぐったそうに笑う。

「私たち、今までなにをしていたんでしょうね? 両想いだったのに、ずっとすれ違っていたなんて」
「ああ……。それは僕も少し思うよ。あのとき、あんなことをしなければ。あんな言い方をしなければ……。もっと早く、君とこうやって過ごせていたのかなって」
「ええ、本当に」
「でも……。だからかな。この時間の尊さが、大事さが、よりわかる気もする」
「ワート様……」

 カレンは、ジョンズワートの胸にそっと身体を寄せた。
 ジョンズワートもまた、カレンを抱きしめる腕に力を込める。
 ぴったりとくっついて。体温が溶け合って、混ざって。境界すらわからなくなってしまいそうだった。


 二人で過ごす夜は、ゆっくりと、けれど確かに時を刻んで。
 分かれていた道が交差して、手を取り合って。二人の時間が、進んでいく。
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