若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 カレンたちが母国に着いた頃、ホーネージュの冬は終わりに近づいていた。
 ジョンズワートたちが出発した頃から、もう季節が変わり始めている。
 地形の関係で、国境を越えた途端に雪国となる。
 終わりに近いとはいえ、冬は冬。
 ホーネージュに入ってからデュライト公爵領に着くまで、それなりの時間を要するかと思われたが……。
 どうしてか、カレンたちが通る道の吹雪は収まり、幼いショーンを連れていてもなんとか進める程度には天候が安定していた。
 まるで――

「おかえり、って言ってるみたいだね」

 想定よりもずっと早く、デュライト領に到着できたとき。
 ジョンズワートが、はにかみながらそう言った。
 それはジョンズワート自身が、カレンに向けた言葉でもあった。
 カレンもジョンズワートに笑みを返し、彼の手を握る。

 雪に慣れていないショーンがそわそわしていたものだから、公爵邸に行く前に、町を見て回ることになった。
 ショーンと手を繋ぎ、町の中央の広場へ。
 ホーネージュの建物は、天井がとんがっているものが多い。積雪対策だ。出入り口が2階にあることだってある。
 ラントシャフトとは全く異なる光景に、ショーンは目を輝かせた。

 広場から見えるのは、一面の銀世界。
 空は曇り、しんしんと雪が降り続いているが、視界は明るい。雪が光を反射しているのだ。
 元より雪深い地であるから、こんな天気でもそれなりの人が外を歩いているが、雪に音が吸い込まれるために静かだ。
 息をすると、きん、と冷たい空気が身体の中に入ってくる。ラントシャフトはここまで寒くなることはなかったから、カレンがこの空気を感じるのは本当に久しぶりで。
 ああ、帰ってきたんだな、と実感することができた。
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