若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「ショーン。急に飛び出したら、母さんが心配するよ。ほら、手を繋ごう。どこに行きたい? 気になるものはある?」

 ショーンをおろし、父と息子が手を繋ぐ。
 ジョンズワートは、空いてる方の手で色々な方向を指し示した。
 だが、ショーンはジョンズワートが指さす方ではなく、実の父のことをじいっと見つめていて。
 深い青の瞳には、同じ色を持つ大人の男の姿が映っている。
 ここまでの旅路で、なにか思うところがあったのだろうか。
 ショーンは、

「……おとう、しゃ?」

 と。
 一言だが、そう言った。

「……!」

 ジョンズワートも、これには驚いた。
 ショーンに出会ってから、さほど時間は経っていない。
 なのに、もう。父親だと思ってもらえたのだろうか。
 本当に、本当に驚いたし、嬉しかったのだ。だからジョンズワートは、ショーンと繋いだ手から、力を抜いてしまった。
 そのすきに、ショーンはまた走り出す。

「待ちなさい、ショーン!」

 しかしすぐにジョンズワートに捕まって。今度は息子を抱き上げたまま、カレンの元まで連れて行った。
 父息子の攻防を少し離れた場所から見ていたカレンは、くすくすと楽しそうに笑っていた。
 ショーンがジョンズワートのことを「お父さん」と呼んだのは、驚かせて逃げるためだったのか、それとも、なにかを感じ取ったのか。
 それは、ジョンズワートにも、ショーン自身にもわからなかった。
 だって、ショーンは。まだ、3歳なのだから。
< 116 / 210 >

この作品をシェア

pagetop