若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「しかしカレン、なにがあったんだ?」

 少し場が落ち着いた頃。
 そう聞いてきたのは、カレンの父・アーネスト伯爵である。
 カレンとジョンズワートは目と目で会話し、ジョンズワートが口を開く。

「カレンの口からは、少し……」
「あ、ああ。そうですね。すまない、カレン。つらいことを聞いた」
「いえ……」

 カレンは、それだけ言って瞳を伏せる。
 そんな姿を見てしまった家族は、それ以上、その場で追及することはできなかった。

 ラントシャフトからホーネージュまでの移動時間に、この4年間なにがあったのか、と聞かれたときの対処方法についての話し合いは済んでいた。

 まず、カレンとチェストリーをさらい、死亡まで偽装した賊たちが実在していた、という設定に。
 どこかもわからない場所に連れていかれ、二人とも怖い思いをした。
 カレンの妊娠が発覚した頃、チェストリーがカレンを連れての逃走に成功するが……あまりのことに、カレンの精神状態はひどく不安定だった。
 すぐにでもホーネージュに帰りたかったが、カレンは身重で、心にも相当なダメージを負っている。
 出産と回復を優先。恐怖を思い出さなくて済むよう、過去のことからも遠ざけて。
 この4年間、チェストリーがカレンを守り続けていた。
 カレンの容態や育児が落ち着いてきて、カレン自らジョンズワートに会いたいと言うようになった頃に手紙を出し、ようやく二人は再会。
 大体、そんな流れであることにした。

 できることなら真相を話してしっかり謝りたかったが……それはそれで、今後に支障が出る。
 誘拐された話をそのまま活かす形のほうが、家族としてやり直しやすい。そう判断してのことだった。
 言ってしまえばほとんど嘘であるから、心苦しい。
 けれど、本当のことを話してしまえば、余計に人々を混乱させ、ショーンに与えるショックや傷も大きくなるだろう。
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