若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 正しいのは、死亡を偽装したことと、チェストリーがカレンを守り続けたこと、ジョンズワートに手紙を送ったことぐらい。
 真偽を疑い、カレンから真相を聞き出そうとする者がいれば、すぐにバレてしまうかもしれない嘘だったが……。
 カレンには聞かないで欲しいと言って、ジョンズワートが盾になった。
 それに、カレンを傷つけてまで、恐ろしい過去を思い出させてまで、話を聞こうとする者も、いなかった。
 みな、この4年間のことについては、なるべく触れないようにしてくれた。
 中には、多数の嘘が混ざっていることに気が付いている者もいたかもしれないが……。
 公爵であるジョンズワートがそれをよしとしているし、妻を取り戻した彼は心の底から喜んでいる。
 だから、この件を掘り起こそうとする者は少なかった。


 本当のことを話さず、自分が被害者であり続けることは、カレンを苦しませた。
 それだけのことをしたのだから、後悔も反省もせず、苦しみもせず終了にはならない。
 けれど、ついつい、真相を知るジョンズワートに甘え、謝ってしまうのだが……やはり唇をふさがれる。
 すれ違いを解消し、互いの想いを確かめ合ったことで、ジョンズワートの臆病さは消えていた。
 キスをされ。頬を撫でられ。髪に触れられ。愛おしそうに見つめられ。
 吹っ切れた旦那様の愛情表現をたっぷりと、それはもうたっっぷりと受けたカレンは、もう、彼を疑うことなどできなかった。
 何年経っても諦めなかった実績と、現在の愛しっぷり。自分は愛されていないと思う方が難しい。



 死亡説が流れても妻を探し続けた男、ジョンズワート・デュライト公爵は、4年の時を経て、ようやく妻を取り戻した。
 離れている間に誕生した息子まで一緒に。
 カレンは公爵夫人に戻り、ショーンは公爵の長男としての扱いに。
 新米奥様のまま姿を消してしまったカレンは、貴族として、公爵夫人として振る舞えるようになるまでそれなりに苦労し。
 全く異なる環境に身をおくことになったショーンも、最初は戸惑っている様子だった。
 色々あった家族だから、公爵邸での暮らしに馴染むまでには時間がかかるだろう。
 そうしているうちに季節が廻り、ホーネージュに春がやってきた。
 家族三人で迎える、初めての、新しい季節だ。
< 119 / 210 >

この作品をシェア

pagetop