若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
新たな始まり
 デュライト公爵邸の庭に置かれた椅子に座り、カレンは春の日差しを浴びていた。
 カレンの侍女を続けるサラも、そばにいる。
 とはいえ、ホーネージュは雪国。穏やな気候だったラントシャフトに比べると、春であっても少し肌寒く思える。

 カレンは、ふと思い出す。
 ジョンズワートに二度目の求婚をされたときも、こんな天気だったなあと。
 あのとき、カレンは彼の申し出を受けるべきかどうか迷っていた。
 20歳のカレンは、ジョンズワートへの恋心が消えていないことを自覚し、揺れていた。
 自分に素直になって、すぐに頷けばよかったのかもしれないが……。二人は8年もまともに会話もしていなかったし、サラとの噂も知っていた。
 だからジョンズワートの意図がわからず、返事もできないでいるうちに、額の傷に触れられ――傷をつけた責任を利用して、彼と結婚してしまった。
 その後の結婚生活では、彼はとても優しかったが、カレンが本当に必要としていることはしてくれなくて。
 そんな折、サラとキスしているような場面も見てしまい、妊娠の可能性にも気が付き……ひどいやり方で、ジョンズワートの元から逃げ出してしまった。
 ジョンズワートにも非はあった。
 しかしそれも、彼が15歳だったとき、最初の求婚でカレンがひどい言葉で彼を傷つけたから、臆病になっていたわけで。

 自分のせいで、多くの人に迷惑をかけてしまった。心配させた。
 ジョンズワートをたくさん傷つけてしまった。
 息子のショーンにだって、余計な苦労をさせている。
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