若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「ほら、ショーン。おいで。気を付けてね」
「うん!」

 俯くカレンの耳に、ショーンとジョンズワートの笑い声が届く。
 顔を上げれば、ジョンズワートがショーンに肩車をしてやっていた。
 帰国後、ジョンズワートは可能な限り、妻子と過ごす時間を作っていた。
 忙しいはずなのに、今も庭でショーンと遊んでいる。
 肩車をしてショーンに木を見せる姿は、もうすっかり親子のそれだった。同じ色をしているから、余計にだろう。
 そう見えるというだけで、ショーンはまだ、ジョンズワートのことをよく遊んでくれるおじさんぐらいに思っているようだが……。
 自分が勘違い思い込みで逃走などしなければ、もっと早くこの光景を見ることができたのでは。最初から父と息子でいられたのではないかと。そう、思ってしまう。

 二人が仲良くなってくれたこと、自身もジョンズワートとのすれ違いを解消し、デュライト公爵邸に戻ってこれたことは、嬉しい。
 でも。それでも――。
 カレンは唇を結び、握った手には力が込められた。
 奪って、しまった。
 ショーンとジョンズワートの時間を。ショーンが本来あるべきだった場所を。
 涙がにじんできたとき、ショーンを肩車したままのジョンズワートがやってきた。

「カレン、きみもおいで……よ……」
「ワートさま……」

 カレンの瞳が潤んでいることに気が付いたのだろう。
 ジョンズワートはショーンをサラに預け、カレンの隣に座った。
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