若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「だから、カレン。もう気にしないで、なんて……僕が言えたことじゃないけれど。過去じゃなくて、これからを、一緒に見ていきたい。僕も、そうできるよう頑張るから」

 こんな風に言ってもらえても、まだカレンの心は晴れない。
 吹っ切れるには、時間が必要だろう。もしかしたら、吹っ切れる必要もないのかもしれない。
 だって、それだけのことを、カレンはしてしまった。
 互いに非があったとはいえ、妊娠の可能性を隠して逃げたのは、多数の人を巻き込む騒動を引き起こしたのは、カレンだ。
 従者であるチェストリーにだって、大変な迷惑をかけてしまった。
 彼は主人であるカレンのそばにずっといたから。まだ、自分のための人生を歩めていない。
 カレンは、ジョンズワートとショーンだけでなく、自分に忠誠を誓ってくれる従者の人生まで壊してしまったのだ。

 自身の行いについて、ずっと悔み続けることになるのだろう。
 けれど、ジョンズワートの言う通りだと思った。
 自分は、自分たちは、これからを見るべきだ。
 自分自身のためにも、ショーンのためにも、周囲の人々のためにも。
 だから。

「はい」

 声は小さかったが、彼女は、確かに頷いた。
 カレンのほうからも、ジョンズワートに体重を預ける。
 柔らかな日の下で、ようやく夫婦となれた二人は、寄り添った。
< 123 / 210 >

この作品をシェア

pagetop