若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 カレンの肩を抱きながら、ジョンズワートもまた、己の過ちを振り返っていた。

 二度目の求婚のとき、あんな手を使うべきではなかった。
 返事に困る彼女の傷に触れて、無理やり頷かせるなんて。
 責任をとるためなんかじゃない。きみが好きなんだと、何年経っても諦めることができなかったのだと、彼女に届くまで伝え続けるべきだったのだ。

 結婚後だってそうだ。
 ジョンズワートは、勝手に彼女を守っているつもりになっていた。
 実際、大事に扱ってはいた。けれど……本当に必要なことは、できていなかった。
 嫌われているとしても、カレンの外出に同行したいと、もっと早くに言ってみるべきだった。
 彼女が勇気を振り絞って夜の営みに誘ってきたときも、ただ拒むだけではなく、もっと言葉が必要だった。
 結婚さえしてしまえば大丈夫、この先の時間もあるだなんて思って、悠長に構えているべきではなかった。
 ジョンズワートは、ひどく臆病で。間違ってばかりで。
 なのに彼女への気持ちを捨てることも、諦めることもできなくて。
 いつもいつも、色々なものが足りていなかった。

 たしかに、1度目の求婚をした15歳のときはひどく傷ついたし、そのあとは父が病気を患わったこともあり、本当に大変だった。
 だとしても、カレンのことを想っているつもりで、結局、自分のことしか見ていなかったのかもしれない。
 どれもこれも、これ以上、自分が傷つきたくなかっただけだったのかもしれない。

 それでも、カレンは帰ってきてくれた。
 こんな情けない、彼女を傷つけてばかりの、自分のもとに。
 すれ違いを解消し、想いを通じ合わせた今、ジョンズワートは、もう、臆病になるのはやめた。
 今度こそ、彼女を大事にしてみせる。
 大事にしているようで、蔑ろにしていたあの過ちを、もう繰り返したくない。
 ……完璧には、いかないかもしれないけれど。
 もう、カレンを泣かせたくなかった。
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