若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 ホーネージュは、1年の半分近くが冬の雪国である。だから、春も短いし、他国に比べれば肌寒い。
 そうなのだが……。今年のデュライト公爵邸の春はとてもあたたかく、濃密だった。

 誘拐され、4年も行方不明だった夫人が、旦那様との子まで連れて帰ってきたのだ。
 公爵邸は、それはもう大盛り上がりで。
 旦那様そっくりのご子息の世話を、誰が担当するかで揉めるほどだ。
 そのご子息もご子息で、自分の世話を担当する者に花や葉っぱをプレゼントするものだから、あまりの愛らしさにメイドたちは悶絶している。
 さらに奥様のカレンから、幼い頃の旦那様も似たようなことをしていた、身体の弱い自分の元に色々なものを運んでくれた、なんてエピソードまで飛び出せば。
 みな、この家族を絶対に守る。もう二度と離ればなれになんてさせない、という意思を高めた。

 今日もショーンは、メイドたちに可愛い可愛いと言われながら過ごしている。
 そんな幼子を、少し離れたところから見守る男が一人。
 ショーンの父親役をつとめていたチェストリーだ。
 カレンとジョンズワートがラントシャフトで再会した際、休暇をよこせと言っていた彼であったが……。
 ホーネージュに戻ってからも、デュライト公爵邸にいた。
 4年も不在だったため、デュライト公爵家には、チェストリーが必要となる仕事はほとんどないのにだ。

「ショーン様の近くには、あまり行かないのね」
「……サラか」
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