若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 カレンが戻ってくるまで結婚しないと言っていたサラも、今もデュライト公爵家で働いている。
 カレンの侍女であるため、ショーンとも関わることが多い。
 だからサラは、今までジョンズワートに代わって二人を守っていたチェストリーが、あまりショーンに近づかないことも知っていた。

「いいの? 父親代わりだったんでしょう?」
「いいんだよ、これで」
「……旦那様のため?」

 ジョンズワートは今、ショーンの父親になろうと努力している。
 休憩時間のほとんどを、ショーンと過ごすことに費やすぐらいだ。
 そこにチェストリーが現れたら、ショーンは「父」の方へ行ってしまう。
 チェストリーが今まで通りにショーンに接していたら、彼の父親はチェストリーのままだろう。
 父親の役割を、自分からジョンズワートに移すため、ショーンに近づきすぎないようにしているのだ。
 けれど急にいなくなれば、「父親」を失ったショーンは不安になるだろう。
 だから近づきすぎず、離れすぎず。そんな距離を保つため、チェストリーは今もデュライト邸にいた。
 幸い、元から仕事で家をあけていることも多かったから。
 仕事だと言えば、チェストリーが近くにいなくても、ショーンは納得した。
 サラもそういったことがわかっているから、ジョンズワートのためか、と聞いたのだが。

「……お嬢と、ご子息のためだよ」

 チェストリーは、そう答えた。
 ジョンズワートではなく、カレンとショーンのためだと。
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