若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 カレンがジョンズワートのために髪を伸ばそうとしていることを、サラもわかっているようで。

「旦那様が病みつきになるぐらい、つやつやさらさらにしてみせます!」

 と意気込んでいる。

「もう、サラったら」

 思わず、カレンはくすくすと笑ってしまった。
 ラントシャフトからホーネージュに戻るあいだ、ジョンズワートから聞いたことだが、サラは昔から世話焼きだとかで。
 父を亡くしたジョンズワートを支えた、というのも本当だそうだ。
 その時期、あまりの多忙さや悲しみから、外部の女性と親しくする機会は少なかったから。
 そんな中でもジョンズワートの近くにいられるサラとの噂が発生してしまったのだろうと、ジョンズワートは話していた。
 カレンも知っていることだが、恋仲であるなど事実無根。本当に、ただの噂にすぎず。
 サラはそういう性格なだけで、相手がジョンズワートじゃなくたって、こうして親切にしてくれるのだ。

「……サラ。ありがとう」
「そんな、奥様! 私は奥様の侍女なのですから、当然のことです!」

 恐縮するサラを見て、ふふ、と笑みをこぼしながら。カレンは、そっと自分の髪に触れた。
 今では、自分でそうするよりも、ジョンズワートに触られることが多い、亜麻色の髪に。
 サラが丁寧に手入れしてくれるから、今だって十分に綺麗で、指通りもいい。
 このまま、前のような腰まで届くほどの長さになったら。
 ジョンズワートはもっと喜んでくれるだろうか。もっともっと触ってくれるのだろうか。
 そんなことを考えてから、ジョンズワートがそばに居ること、触れてもらえることが当たり前になっていることに気が付き、頬を色づかせた。
 
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