若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 ホーネージュに戻ってから、ジョンズワートの寝室は、カレンの寝室にもなった。
 4年前、ジョンズワートを夜のことに誘ったカレンは、彼のベッドにも上げてもらえなかったが……。
 今では、同じベッドで過ごすのも当然になっている。
 ジョンズワートも、カレンを拒むどころか、「おいで」と言って、カレンを自分の足の間に座らせる。

 今日も一緒にベッドに乗りあげ、カレンを後ろから抱き込んでご機嫌のジョンズワート。
 もう夜だから、互いに寝衣である。
 カレンからはまだ恥ずかしさが消えていないが、旦那様がにこにこだし、決して嫌ではなかったから、彼の好きにさせている。
 時折、「あー癒される……」「疲れが飛ぶ……」なんていう言葉も聞こえてくる。
 
「あの頃、きみに触らなかった僕は本当にバカだ……」
「もうあんな避け方しない。離さない。この温もりなしで生きるのは厳しい……」

 こんなことを言いながら、ぐりぐりとカレンの肩に頭をこすりつけてくるものだから。

「もう、大げさですよ。ワート様」

 甘えん坊の大型犬みたいで、つい笑ってしまった。
 そっと手を伸ばし、ジョンズワートの頭に触れる。
 さらさらとした金のそれは、触り心地がよくて。なでなでなでなで、と夢中になってしまった。
 ジョンズワートはといえば、ようやく取り戻した愛しい人に撫でられるこの時間を、じっくりと味わっている。
 大人しく。とても嬉しそうに。黙って撫でられる姿は、本当に大型犬のそれで。
 自分より年上の公爵様に対して、可愛い、と思ってしまった。

 しかし、可愛いわんちゃんのように思えても、ジョンズワートは大人の男である。
 どこでスイッチが入ったのかわからないが、カレンの頬を撫でながら、「カレン」と耳元で名前を呼んできた。
 熱を孕んだ甘い声に、頭がくらくらする。
 
「ワート、さま……」

 ああ、求められている。
 彼の声から、動作から、それがわかった。
 自分に触れる彼の手を、カレンは拒まなかった。
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