若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 そんな父息子を見たカレンは――

「ふふっ、ふふふっ」

 面白くて、笑ってしまった。
 二人の前ではなんとか耐えたが、少し距離ができた頃には吹き出してしまった。
 まだ幼いショーンが、母である自分に貝殻を見せに来るのわかる。
 でも、そのあと。ジョンズワートまで貝殻を持ってくるなんて。
 しかも、ショーンが持っている分よりずっと多く。
 彼は昔、身体の弱いカレンに色々なものを見せてくれたから。
 そのときの感覚が、抜けていないのかもしれない。
 自分より多くの貝殻を持ってきた男に対して、ショーンが機嫌を損ねてしまったのも、息子には悪いが面白かった。
 父息子揃って同じことをして、息子の機嫌を損ねて。なんとか宥めて、また遊びに行った。

 今度はなにを持ってくるんだろう。なにを見せてくれるんだろう。――どんなやりとりが、見られるのだろう。
 カレンは、もう、この時間が楽しくてたまらなかった。


 カレンがくすくす笑っているころ、ジョンズワートは、大人げないことをしたと反省していた。幼子に張り合うような真似をしてしまった。
 昔のクセで、ついついカレンに色々なものを見せたくなってしまうのである。
 だって、彼女はなにを見せても喜んでくれるのだ。……流石に、セミの抜け殻のときは怯えられたが。
 けれど、怖がらせるようなものを持ち込んだとしても、怒られはしないのである。
 驚いて小さく悲鳴をあげたあと、せっかく持ってきてくれたのにごめんなさい、と謝ってくるぐらいで。
 ベッドで寝込みがちな女の子には刺激の強いものを渡した、ジョンズワートが悪いのにだ。
 ジョンズワートは、そんな彼女の優しさと笑顔が、好きだった。
 この年になっても、幼子と一緒になって貝殻をみてみてしてしまうぐらいには。
 今回も、ショーンにだけでなく、ジョンズワートにも笑顔を見せてくれた。
 息子より多くの貝殻を持ってきた27歳の男に対しても、呆れることなく、きれいだと、笑ってくれたのだ。
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