若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 ふと、ああ、そういうことか。とジョンズワートは気が付く。
 ショーンが、よくメイドに花や葉っぱをプレゼントしていることは知っていた。
 それはきっと、カレンがショーンの「みてみて」に対して毎回笑顔を見せていたからだろう。
 これが相手に喜ばれる行為であると。受け取ってもらえると。ショーンは知っているのである。
 そう教えたのは、そう思わせたのは、カレンである。
 母が喜んでくれるから、笑顔を見せてくれるから。ショーンは贈り物をすることに迷いがない。
 初対面のときも、見知らぬ男である自分に近づき、大丈夫かと心配してくれたが……。
 それも、他者を心配することが自然なものとして身についていたからなのだろう。
 ショーンが可愛がられて暮らしてきた子であることは、これまでの姿からも伝わってきていた。


 カレンは他国へ逃亡し、知り合いもいない土地で、乳母なんていない状態で、子育てをしていた。
 貴族から平民の生活へ。母国から他国へ。乳母もなく子供を育て。
 伯爵家のお嬢さんとして育った彼女には、大変なことだっただろう。
 それでもショーンは、こんなにも元気に、優しく育っている。


 ジョンズワートは、ショーンと手を繋いだままカレンのほうへ振り返った。
 目が合うと、カレンは嬉しそうにひらひらと手を振る。
 そのまなざしは、愛情にあふれていて。
 彼女は母なのだと、ジョンズワートに強く感じさせた。
 ショーンと離れていたジョンズワートは新米パパであるが、彼女は、ここまでこの子を育ててきた、立派な母なのである。
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