若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 そんな三人を、チェストリーは離れた場所から見守っている。
 離れてはいるが、一応、彼らが見える場所ではある。
 チェストリーから見えるということは、ショーンにも彼の居場所はわかっている、ということで。
 時たま、ショーンがチェストリーを遊びに誘うこともあった。

「俺はいいよ。ワートさんと遊んでおいで」

 けれど、チェストリーがそう返せば。
 少し残念そうにしながらも、ショーンはジョンズワートの元へ戻った。

 チェストリーは、少しばかり期待してしまっていた。
 ジョンズワートではなく、自分でないと嫌だと、ショーンがわがままを言うのではないかと。
 しかし、そんなことはなく。
 ショーンは、チェストリーに遊びを断られたあとも、ジョンズワートに笑顔を見せている。
 手を繋いでいなくたって、ジョンズワートについて回っているのだ。
 ショーンが海に入らないよう、警備はしっかり配置されているが……。
 ジョンズワートとの遊びに夢中で、今のところ、無理に海へ向かう様子もない。

「……もう、大丈夫なのかもしれないな」

 寂しさと、喜びと。悔しさと。
 チェストリーは、色々な感情を抱きながら、よく似た父子を眺めていた。
 ジョンズワートと遊ぶショーンは、本当に楽しそうで。
 色だって同じだから、どこからどう見ても仲のいい親子だ。
 今日は、まだ旅行初日。だから、今後について決めるにはまだ早いが――この時点で、チェストリーには、父親交代の日が見えていた。
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