若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 初めての家族旅行だから。
 宿はこの辺りでも評判の、オーシャンビューのものを選んだ。
 ガラス張りの大きな窓からは、夕日が沈む海が見える。
 これにもやっぱりショーンは大喜びで。
 喜んでいるのは確かだが、今までとは少し様子が違い。
 じっと窓に張り付いて、この光景を目に焼き付けているようだった。
 あまりの美しさに、感動しているのかもしれない。

「おかあしゃ、おかあしゃん!」

 そしてやっぱりカレンを呼んで。
 カレンがショーンの隣で屈んだが、ショーンはまだきょろきょろしている。

「おとーしゃは?」
「お父さん? えっと……」

 ショーンが「お父さん」を探している。
 チェストリーも同じ宿に泊まっているが、部屋は別だ。すぐに呼んでくることはできるが……。
 カレンは、ショーンの言う「お父さん」がジョンズワートとチェストリーのどちらなのだろうか、と少し悩んでしまった。
 それほどに、ジョンズワートとショーンの距離は縮まっているのだ。
 近くにいたジョンズワートも同様で。
 ショーンに呼ばれているのが、自分なのか、チェストリーなのか、わからない。
 自分であって欲しいという思いはあったが――今のショーンの中で「お父さん」と言えばチェストリーだろう。
 そう判断して、彼を呼びに行こうと席を立ったのだが。

「こっち! こっち、きて!」

 とショーンがぶんぶんと手を振っている。ジョンズワートに向かって、こちらに来いと言いたげに、手を、振っている。
 ショーンが呼んでいた「お父さん」は、自分だったのだろうか。
 それとも、仲のいいおじさんである自分がどこかへ行こうとしたから、こっちに来てと呼んだだけなのか。
 どちらなのかは、わからなかったが――。
 ジョンズワートは、ショーン、カレンと並んで、夕日を眺めた。
 ショーンを抱きあげて、子供の目線より高い位置から外を見せてやれば、ショーンはさらに喜んだ。
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