若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 チェストリー不在のまま、時は流れ。
 ホーネージュの1年の半分近くを占める季節、冬がやってきた。
 ショーンはこことは違う温暖な土地で育ったから。みな、この幼子が風邪などひかないよう気を配った。
 その甲斐あってか、冬と呼べる時期に入っても、ショーンは寝込むほどの体調不良には襲われていない。
 4年過ごしたラントシャフトとの差にやられたのは、母親であるカレンのほうだった。
 どうも、ショーンは見た目だけでなく体の丈夫さも父親譲りなようだ。
 寒さにやられて寝込む母のベッドで、今日は誰と遊んだ、ジョンズワートとこういうことをしたと報告する姿も、幼い頃の父に似ていた。
 ベッドに乗りあげ、たどたどしくも楽しそうに母に今日の出来事を報告するショーンと、それを聞いて微笑む母。
 そこにジョンズワートも加わる光景は、もうすっかり家族のそれで。
 そうやって二人がカレンを元気づけてくれたからか、数か月が経過したころには、カレンもホーネージュの冬に適応し始めていた。
 
 カレン自身もそれを感じ始めたころ、彼女は夫のジョンズワートにこう提案した。

「ワート様。故郷の雪まつりに行きたいのですが……」

 夜、夫婦の寝室にて。二人一緒にベッドに乗りあげて、温もりを分け合うかのように身を寄せ合っていたときのことだった。
 それまで上機嫌に妻の髪を撫でていたジョンズワートが、びしっとかたまった。

「あの……?」

 いいね、いこうか。と快諾されると思っていたカレン。どうしましたか、と聞こうとして、自身の過去の行いを思い出す。
 妊娠の可能性を隠し、誘拐と死亡を偽装したあの日。カレンは、雪まつりに行きたいと言って無理に外出し、そのまま姿を消した。
 ジョンズワートはきっと、あの時のことを思い出してしまったのだろう。
 そのことに気が付いたカレンは、誤解をときたい、ジョンズワートの不安を取り除きたい一心で必死になって。
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