若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 アーネスト領の雪まつりへ行く日がやってきた。
 1週間ほどかけて行われる盛大なものだから、その日の催しとジョンズワートの予定の両方を考慮して、日程を決めた。
 気兼ねなく過ごすため、今日は丸一日休みにしてある。

 まずは、カレンの実家でもあるアーネスト家へ。

「じーじ! ばーば!」

 アーネスト伯爵家の玄関にて。
 祖父母を見つけたショーンが満面の笑みで手を振れば、屋敷のどこかから「んんっ……」となにかを堪えるような声が聞こえてくる。
 可愛い可愛いお孫様の登場に、アーネスト家一同、幸せいっぱいである。
 もちろんそれは、ショーンの祖父母であるアーネスト伯爵夫妻も同じで。

「ショーン! いらっしゃい」
「ショーンは本当に可愛いなあ」

 祖父母に順にハグをされ、ショーンはきゃっきゃとはしゃいでいる。
 ジョンズワートはまだ「お父さん」と呼ばれていないが、ショーンがじーじ、ばーば呼びを始めるのは、早かった。
 祖父母の席は元々空いていたから、その呼び方に慣れるのもすぐだった、というだけの話なのだが……。
 実父のジョンズワート、ショーンが家族に馴染めた嬉しさと、自分だけ置いていかれた感で、なんとも言えない気持ちである。

「そうそう。話してあった、ショーンのコートなんだけど」

 カレンの母がそう言えば、コートを持ったアーネスト家の使用人たちがさっと並んだ。
 娘夫婦が孫を連れて雪まつりに来ると聞き、じいじとばあばは大喜び。
 雪まつり用に、三人揃いの防寒具を用意すると言い出したのである。
 だから、ショーンだけでなくカレンとジョンズワートの分もあるのだが……。
 先ほど、はっきりと「ショーンのコート」と言っていた。孫のショーンがメインなのである。
 もちろん、娘とその夫も大事な存在だ。
 しかし、「ばあば」の気持ちの相当な割合が、孫に向いていた。
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