若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「お嬢。本当に、これでよかったんですか?」
「……よかったもなにも、こうする以外にどうしろと言うのです」
「どうって……。ジョンズワート様の求婚を、受け入れてもよかったのではありませんか?」
「……こんな形で、あの人を縛りたくありません」
「ですが……。俺には、ジョンズワート様は、怪我のことなど関係なく、あなたとの結婚を望んでいるように見えました」
「……」
チェストリーは、彼女の従者として、常に、と言っていいほどカレンの近くにいる。
だから、ジョンズワートがカレンに向ける好意も、よく知っていた。
ジョンズワートがカレンを見る瞳には、優しさと愛おしさが宿っており。なんとも思っていない相手に、あんな顔をしないだろう。
自身も男だから、余計に、ジョンズワートがカレンに向ける愛情がよくわかる。
ジョンズワートは、怪我のことなど関係なく、カレンを妻に迎えたいと思っているはずだ。
だから、本当にこれでいいのか、彼はあなたとの結婚を望んでいるはずだ、と口にしたのだが……。
カレンからの返事は、なかった。
ふとカレンが立ち止まり、後ろを歩くチェストリーの方を振り返る。
彼女の瞳に溜まった涙が、動きに合わせてこぼれていった。
緑の瞳を涙でいっぱいにして、苦しそうに、悲しそうに、けれど気丈に自分を睨みつける主人を前にして、なにも言えなくなってしまった。
彼はカレンの従者なのだ。それも、カレンに人生を救われている。
彼を引き取りたいという貴族は、少なくなかった。けれど、その多くがチェストリーの見目を気に入り、玩具にすることを望む者ばかりで。
まだ幼いカレンが手を伸ばしてくれなかったら、チェストリーはどんな目に遭っていたかわからない。
綺麗な服が着られるのも。必要な教育を受けられるのも。従者として、伯爵家にいられるのも。
全て、カレンのおかげなのだ。
だから、カレンがそう決めたなら。カレンがそう望むなら。カレンが、苦しんでいるのなら。
チェストリーは、カレンの意思を尊重する。
……たとえ、思うところが、あったとしても。
「……よかったもなにも、こうする以外にどうしろと言うのです」
「どうって……。ジョンズワート様の求婚を、受け入れてもよかったのではありませんか?」
「……こんな形で、あの人を縛りたくありません」
「ですが……。俺には、ジョンズワート様は、怪我のことなど関係なく、あなたとの結婚を望んでいるように見えました」
「……」
チェストリーは、彼女の従者として、常に、と言っていいほどカレンの近くにいる。
だから、ジョンズワートがカレンに向ける好意も、よく知っていた。
ジョンズワートがカレンを見る瞳には、優しさと愛おしさが宿っており。なんとも思っていない相手に、あんな顔をしないだろう。
自身も男だから、余計に、ジョンズワートがカレンに向ける愛情がよくわかる。
ジョンズワートは、怪我のことなど関係なく、カレンを妻に迎えたいと思っているはずだ。
だから、本当にこれでいいのか、彼はあなたとの結婚を望んでいるはずだ、と口にしたのだが……。
カレンからの返事は、なかった。
ふとカレンが立ち止まり、後ろを歩くチェストリーの方を振り返る。
彼女の瞳に溜まった涙が、動きに合わせてこぼれていった。
緑の瞳を涙でいっぱいにして、苦しそうに、悲しそうに、けれど気丈に自分を睨みつける主人を前にして、なにも言えなくなってしまった。
彼はカレンの従者なのだ。それも、カレンに人生を救われている。
彼を引き取りたいという貴族は、少なくなかった。けれど、その多くがチェストリーの見目を気に入り、玩具にすることを望む者ばかりで。
まだ幼いカレンが手を伸ばしてくれなかったら、チェストリーはどんな目に遭っていたかわからない。
綺麗な服が着られるのも。必要な教育を受けられるのも。従者として、伯爵家にいられるのも。
全て、カレンのおかげなのだ。
だから、カレンがそう決めたなら。カレンがそう望むなら。カレンが、苦しんでいるのなら。
チェストリーは、カレンの意思を尊重する。
……たとえ、思うところが、あったとしても。