若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「今回は、本当にありがとうございました。後ほどお礼に伺います」
「いいのよお、お礼なんて。久々に孫に会ったみたいで、私も楽しかったもの。ショーンちゃん、元気でね。お父さんから離れちゃダメよ?」
「うん……」

 一人になって寂しかったのだろう。
 ショーンは、自分を抱き上げるジョンズワートの胸にぺったりとくっつき、こくりと頷いた。

「お父さんも。このくらいの子はすーぐどこかへ行っちゃうからねえ。ちゃあんと手を繋いでおいてあげないと。目を離したら、いけないよ」

 この老婦人は、ジョンズワートの事情どころか、正体も知らない。
 だから、彼女は一般論を言っているだけだ。
 幼い子供とはしっかり手を繋ぐ。どこかへ行ってしまわないよう、目を離さない。
 当たり前のこと、普通のことなのだが……。
 これまで何度も家族を失いかけたジョンズワートの胸に、響くものがあった。
 ショーンがいなくなったあの時の、不安と絶望感。見つけたときの安堵と幸福。
 ジョンズワートは、息子のショーンのことが本当に大事で、失いたくないと心の底から思っていることを、再確認した。
 だから、返事は決まっている。

「……はい! もう、絶対に離しません」

 ジョンズワートの力強い返事に、老婦人はうんうんと頷いた。
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