若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 しっかりと防寒具を着たショーンを抱いて、カレンたちの元へ向かう。
 自分にすがりつく息子をぎゅっと抱きしめ、努めて優しく話しかける。

「ショーン、ごめんね。寂しかったろう。もう、離さないから」
「……う、しゃ」
「え?」
「おとう、しゃ」

 本当に寂しく、心細かったのだろう。父に抱かれたショーンは、その胸でぐすぐすと泣き始めた。
 お父さん、という呼び方つきで。

「おとうしゃ、おとう、しゃ、おとーさ……」

 べしょべしょ。ぐすぐす。
 お父さん、とジョンズワートのことを呼び、安心しきってその身を預け。父にべったりくっついて。息子は泣き続ける。
 こうもはっきりと、ショーンがジョンズワートのことを「お父さん」と呼ぶのは初めてで。
 もしかしたら、あの老婦人がジョンズワートのことを「お父さん」と呼び続けたから、ショーンにもそれがうつったのかもしれない。
 明日にはまた「ワートさん」呼びに戻るのかもしれない。
 でも……それでも。自分は、この子の父なのだと。紛れもなく、お父さん、なのだと。
 ジョンズワートは、自分の胸で泣く小さな存在の重みと温もりを、しっかりと受け止めた。

 ショーンに初めて会ってから、そろそろ1年になる。
 この子の父は自分であると会ったその日にわかったが、親子としての関係を築くには時間がかかり。
 自信がなくなりそうな日もあった。この子の父にはなれないのではと、悲しくなることもあった。
 けど、諦めずに距離を縮めてきたつもりだ。
 もしも本当の意味で「父」と認められる日が来なかったとしても――父として、この子を守り続ける。
 まだたどたどしい言葉で、お父さん、お父さん、と繰り返す我が子を抱いて、ジョンズワートは強く誓った。
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