若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「おー、またやってますねえ」

 どこか呑気にそんなことを言いながら現れたのは、今もデュライト公爵家でカレンやその子供たちに仕えるチェストリーだ。
 父親交代のため数年はショーンから離れていた彼だが、今は世話係の一人としてそばにいる。
 ショーンが公爵家の長男、ジョンズワートの息子として馴染むまでずっと休暇というのも性に合わなかったため、離れているあいだの多くの時間をアーネスト家で過ごしていた。

「チェストリー! チェストリーからも父上に頼んでよ!」
「はは、坊ちゃん。これに関しては俺がどう言っても無駄だと思いますよー」
「なんで?」
「旦那様は坊ちゃんが心配なんですよ。乗馬は楽しいものですが……同時に、とても危なくもありますから」
「でも、ちゃんと練習すれば……」
「その『練習』も、あと何年かすればさせてもらえますよ。きっと」
「んー……」

 ショーンは不貞腐れてはいるが、今回はこれで諦めたようだった。
 今のショーンにとっての父親は、ジョンズワートである。
 しかし、幼い頃の自分の父親代わりがチェストリーだったことはショーンも知っているし、記憶のどこかにも残っているようで。
 今も世話係をしていることもあり、ショーンにとってのチェストリーは第二の父のようなものである。
 無駄に傷つけなくて済むよう、ショーンには外部向けの説明――カレンとチェストリーが誘拐され、カレンの心が回復するまで離れた地で三人で暮らしていたという話だ――をしてある。



「ショーン様、そろそろお勉強のお時間です」
「あ、もう? わかった、今行くよ。父上、僕がもう少し大きくなったら、絶対ですよ!」
「わかったわかった。約束するよ」
 
 家庭教師に呼び出されても、去り際に乗馬の話をしていくショーン。
 ジョンズワートはそんな息子に苦笑しながらも、「勉強、頑張ってね」とひらひらと手を振って見送った。
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