若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 ショーンはすぐに温かい部屋で待つ母の元へ運ばれたが、ジョンズワートは息子を送り届けるとどこかへ消えてしまった。
 一応、「ちょっと待っててね」という言葉はあったのだが、置いて行かれたショーンはそれどころではない。

「ショーン、おかえりなさい」
「おかあしゃ……」

 ふわりと母に抱きしめられても、ショーンの表情は晴れない。それどころか、だんだんと涙が滲んできて、ぶわっと泣き出してしまった。

「わとしゃが、わとしゃが……。わあああああん!」
「あらあら」
 
 ジョンズワートに無理やり家に戻された。
 外がダメなら、せめて室内で遊んでもらえると思っていたのに、いなくなった。
 ショーンの涙の理由は、こういったものだろう。
 カレンも、ショーンが戻ってきたときの泣きあとや不満でいっぱいの顔から、ここまで経緯はなんとなく察していた。今泣いている訳も。
 ジョンズワートともっと遊びたかったショーンには可哀相だが、外に長居させられないことも、ジョンズワートが多忙な公爵であることも事実。
 ショーンのために毎日時間を作ってくれている時点で、それなりに無理をしているのである。
 今日はもう、これ以上ショーンと遊ぶ余裕はないかもしれない。
 ショーンが落ち着いてきたタイミングを見計らって、カレンがショーンの手を取る。

「ほら、ショーン。おうちで母さんと遊ぼう?」
「わとしゃは? わと、しゃ……」

 ジョンズワートを想い、再び涙が溢れだしそうになったとき。
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