若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「ショーン!」

 二人がいる部屋の扉が開き、頭や衣服に雪がついたままのジョンズワートが現れた。

「わとしゃ!」
「ワート様!」
「待たせてごめんね。これを作ってたんだ」
「これは……」
「うさぎしゃん!」

 鼻を赤くしたジョンズワートがショーンに見せたのは、雪で作られたうさぎ。
 葉っぱや木の実でできた耳と目もついている。
 ジョンズワートの手に乗っているときは小さく見えたそれも、ショーンに手渡されれば大きなうさぎ。
 突然現れた雪うさぎを前に、ショーンはそれはもう大はしゃぎで。きらきらと輝く瞳からは、さきほどまで大泣きしていた姿など想像できない。
 ジョンズワートは、まだまだ雪で遊びたいショーンに雪うさぎを見せたくて、一人で庭に戻っていたのだ。

「ワート様、本当に上手……」
「喜んでもらえたみたいでよかったよ」
「幼い頃を思い出しますね」
「そんなこともあったね」

 カレンが幼い頃にも、ジョンズワートはこうして雪うさぎを作ったことがあった。
 身体が弱く、あまり外に出られなかったカレンは、今のショーンと同じように瞳を輝かせて喜んだものだ。
 ジョンズワートはこういったものを作るのが上手く、当時も可愛らしいものをプレゼントしてくれたが、大人になった今はさらに出来がよくなっている。
 あの頃は互いに子供だったため、雪でできたうさぎを温かな部屋におき、すぐに溶かしてしまった。
 しかし、今は違う。こんなにも可愛らしいプレゼントをもらったときの嬉しさも、溶けてしまったときの寂しい気持ちも、どうしたらいいのかも、もう知っている。
 冷たいうさぎを温めてやりたいのか、暖炉の前に置こうとする優しい息子へ、カレンが声をかける。

「ショーン。うさぎさんはあったかいのが苦手だから、お外においてあげましょう?」
「うさぎしゃん、おへやじゃ、ダメ……?」

 雪うさぎと離れたくないのだろう。しょんぼりとするショーンに、カレンは微笑む。

「大丈夫。そばにいてくれるから」
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