若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 母の誕生日に興奮するショーンをなんとか寝かしつけ、夫婦の時間に。
 カレンと二人になると、ジョンズワートは追加でもう1つ、カレンに小箱を手渡した。

「カレン。改めて、誕生日おめでとう。……これを、きみに受け取って欲しいんだ」
「これ、は……」

 箱の中には、エメラルドのブローチが入っていた。
 カレンの瞳が、驚きに見開かれる。
 これは、カレンがジョンズワートの元から逃げ出した際、誘拐と死亡を偽装するために、崖から落とした馬車の中に残しておいたものだ。
 自分がそこにいたと思わせるために手放した品で、元はジョンズワートから贈られたものだった。

「ずっと、持っていてくださったのですか?」
「……うん。……色々思い出させてしまうかもしれないから、見せるべきかどうか、悩んだけれど。やっぱりこれは、きみに持っていて欲しいんだ」
「ワート、さま」

 馬車と共に落ちた際にできたのか、いくらか傷はついているが、たしかにあのときのブローチだ。
 カレンの瞳から、涙がこぼれた。
 ジョンズワートから逃げたカレンは、彼のいない場所で、もう会うこともないまま、離れて暮らしていくのだと思っていた。
 でも、カレンがそうしている間も、ジョンズワートはずっと、このブローチを大切に持ち続けていた。
 妻の生存を信じて。また会えると、絶対に見つけ出すと、誓って。
 そして、再会した自分に、こうして贈りなおしてくれた。

 ジョンズワートがずっとカレンを探していたことは、再会後に聞いていた。
 そうだと、とっくに知っていたはずなのに。
 彼の想いが形になって目の前に現れると、どうしたって、思い出してしまう。
 己の過ちを。父と子を離ればなれにさせたことを。
 ずっと、彼に向き合えていなかったことを。
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