若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 ジョンズワートは、今にも泣きそうになりながらも笑う妻を、力強く抱きしめる。
 彼はずっと、妻の欠片を抱いて過ごしていた。
 カレンが残したブローチを、いつだって自分のそばにおいていた。
 彼女はきっと生きている、また会えると、自分を慰め、奮い立たせるために、何度もブローチに触れた。
 でも、もう、ジョンズワートにこのブローチは必要ない。
 だって、彼女が残した欠片じゃなくて、本人が、ここにいるのだから。
 ブローチを手に取り、カレンの顔の近くへ寄せる。
 
「……やっぱり、きみの柔らかな緑の瞳に、エメラルドはよく似合う」





 その後、本来の持ち主の元へ戻ったブローチは、修繕のうえ、ちょっとした細工がほどこされた。
 パーツを付け替えると、ネックレス、髪飾りなど、ブローチ以外の用途にも使えるようになったのだ。
 これにはカレンも大喜びし、公の場に出る際は、必ずといっていいほど身に着けるようになった。
 デュライト公爵と夫人の思い出の品らしい、と社交界でも有名になるほどに。
< 186 / 210 >

この作品をシェア

pagetop