若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

あなたを、忘れることなんて カレンside

 これは、カレンがまだ6歳や7歳だった頃のお話。
 
 季節は、春から夏への変わり目。
 ホーネージュでは珍しい、穏やかであたたかな天気の日だった。
 この日は、ジョンズワートがアーネスト邸を訪れる予定で、カレンは朝早い時間から、彼の来訪を心待ちにしていた。
 天気もいいから、外で遊べるかもしれない。そう、期待していた。
 けれど、午前のうちに体調を崩して熱を出し、カレンはベッドに寝かされることとなった。

「ワート様と約束をしているの」

 熱でぼうっとしながらも、幼いカレンはそう口にする。
 無理に起き上がろうとすれば、メイドがそれをとめ、カレンをベッドに戻した。

「ジョンズワート様にはこちらからお話ししておきますから、お嬢様はおやすみください」

 ジョンズワートがやってくる時間まで、あと1時間ほど。
 アーネスト家の者が今から知らせにいっても間に合わないため、ジョンズワートは予定通りこちらにやってくるだろう。
 ならばカレンが起きていれば、彼に会えるはずだ。
 ベッドにいる状態だとしても、彼と会うことができるのなら、話すことができるのなら、それだけでもいいと思えた。
 しかし、薬を飲んだこともあってか、カレンは眠りに落ちてしまった。
 目覚めたときには既にジョンズワートの姿はなく、メイドには「お帰りになられました」と告げられるのだった。

 眠ったおかげか、身体の方は少しだけ楽になった。
 けれど、気分は晴れない。だって、せっかくのお天気なのに外で遊べなかったどころか、ジョンズワートに会えもしなかったのだから。
 しゅんとした気持ちのまま上半身を起こすと、カレンの視界の端に、見慣れないものが映りこんだ。
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