若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 カレン・アーネストは、優しく、美しい女の子だ。
 日々の暮らしも大変なはずなのに笑顔を見せ、ジョンズワートに力をくれる。
 外に出る機会の少ない今は、彼女のよさを知る男は少ない。
 彼女はまだ、男たちに見つかっていないのだ。
 元気になり、外に出るようになったら、きっと、他の人間も彼女の魅力に気が付くだろう。
 もちろん、ジョンズワートだって、カレンが外を駆けまわれるようになる日がくることを、望んでいる。
 けれど、他の男に彼女を見せたくなかった。
 後から出てきた男にカレンを持っていかれるのは、嫌で嫌で仕方がなかった。
 

 ジョンズワートは、眠る彼女に触れる手に、少しだけ力を込めた。
 起こさぬよう、痛くないよう、ほんの少しだけ。

 願わくば、きみの手に触れる男が、この先も自分であるように――。

 そんな思いと共に、ジョンズワートは眠るカレンを見守り続けた。


 公爵家の教育は厳しく、今のジョンズワートでは満足にこなせないものもある。
 それでも、諦めずに食らいつきたい。
 きみが多くの人を知る日がきても、堂々ときみの隣に立てるよう、きみに選んでもらえる男になれるよう、しっかりと、努力を積み上げていこう。




 その後、ジョンズワートは早くに父を亡くし、20歳そこそこにして公爵の地位に就くこととなった。
 まだまだ年若いにも関わらず、年齢以上の働きを見せ、公爵としての仕事をこなすことができたのは、幼い頃からの積み上げがあったからだ。
 彼がサボりもせず頑張ってこれたのは、カレンがいたからで。
 可愛い息子まで連れてカレンが戻ってきてからの彼は、妻子との時間を作るため、より仕事が早く正確になり、その優秀さは国でも評判となった。
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