若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 興奮した様子で、瞳をキラキラとさせるショーン。
 彼の中で、カレンへの贈り物が決定したようだ。
 ジョンズワートも賛成し、庭師に収穫の仕方を教わる。
 庭師はお茶にするのに必要な葉の量なども伝え、愛らしい幼子と主人に会釈をしてから、仕事に戻っていく。
 ショーンとジョンズワートの、収穫タイムが始まった。

 収穫は、ジョンズワートがサポートをしつつ、主にショーンが行った。
 怪我でもしないかと心配でたまらなかったが、これはショーンが母に贈るもの。
 ジョンズワートがでしゃばりすぎるのも、よくないだろう。
 ショーンが満足する頃には、カゴは木苺と葉っぱでいっぱいになっていた。

「おかあしゃ、よろこぶ?」
「もちろん。絶対に喜んでくれるよ」
「うん!」

 帰路は、荷物は使用人に預け、ジョンズワートがショーンを抱いて運んだ。
 今日の大冒険で疲れたようで、ショーンは父の腕の中でうとうとしている。
 眠たそうにしながらも、ショーンは明日に控えたマザーズデイについて話している。

「あのね、きいちご、タルトにするの。……わとしゃ、つくれる?」
「……僕が?」
「わとしゃ、つくって」
「……わかった。タルト作りは僕に任せて」

 ジョンズワートの返事は、少し遅れた。
 次期公爵として育てられ、早くに父を亡くして若くして公爵となった彼。
 料理の経験……それもお菓子を作ったことなど、ほとんどなかった。
 たしかに、3歳のショーンがタルトを作ることはできないだろう。
 カレンにタルトを食べてもらうには、誰かに調理を頼むしかない。
 そこまではジョンズワートもわかっていたのだが、まさか、自分に託されるとは。
 ショーンの気持ちを考えてみれば、一緒に冒険をしたジョンズワートに頼みたくなるのも、わかる気がした。

「大役だな……」

 すうすうと寝息をたてるショーンの背に手を添えながら、ジョンズワートはそう呟いた。
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