若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 仕事中のジョンズワート以外の家族がそろった部屋で、ショーンはある男の服のすそを引く。

「どうしました? 坊ちゃん」
「ちょっと来て」
「わかりました」

 ショーンが小声だったため、男も同じような声量で返す。
 父の日のプレゼント選びに悩んだショーンが、真っ先に頼った相手。
 それは、彼の父親役を担っていたこともある男・チェストリーだった。
 父親交代のため、数年はデュライト邸から離れていた彼だが、すでに主人とその子供たちの元に戻ってきている。
 今では子供たちの世話係でもあり、幼いころの記憶もなんとなく残っているショーンにとっては、第二の父、よき相談相手であった。

 ともに部屋を出ると、内緒話を始める。

 父の日のプレゼントを探しに行きたい。
 でも、なににすればいいかわからない。
 一緒に来て欲しい。

 そんなことを話せば、チェストリーは二つ返事で了承してくれた。
 自分にこそっと話してきたからには、母であるカレンには、あまり知られたくないのだろう。
 ショーンのそんな気持ちをなんとなく感じ取ったチェストリーは、用件を伏せ、カレンにこれだけ伝える。

「お嬢! 坊ちゃんが町に出たいそうなので、一緒に行ってきます!」
「ショーンが? わかったわ。護衛、お願いね」

 カレンが「お守り」という表現をしないのは、ショーンへの配慮だろう。
 母であり、この家の奥様であるカレンの許可も得た。
 かくして、公爵家の長男と、元父親担当の、プレゼント探しのおでかけが始まった。
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