若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
1章
 カレン・アーネストは、ホーネージュ王国の伯爵家の娘として誕生した。
 腰まで届く亜麻色の髪に、柔らかな緑の瞳。
 見た者の心を癒す、とても愛らしい少女だった。
 しかし、幼いカレンの姿を知る者は少ない。
 身体が弱かったため、あまり外に出ることができなかったのだ。

 ホーネージュは海に面した雪国で、冬には強い吹雪に襲われることもある。
 カレンにとっては厳しい環境だったが、伯爵家という生まれや周囲の人々に恵まれたことが幸いし、年齢が十を超える頃には、医師にもう心配ないだろうと言われるようになっていた。

 逆を言えば、それよりも幼い頃は大丈夫ではなかった、生き抜けるかどうか心配だった、ということで。
 幼いカレンは、ベッドで過ごすことも多かった。
 体調を崩せば気分も滅入るものだが――そんなときでもカレンを笑顔にしてくれたのが、デュライト公爵家の長男・ジョンズワートだ。

「カレン。この前、砂浜できれいな貝殻を見つけたんだ」
「わあ……!」

 まだ6歳ほどだったカレンは、ピカピカの貝殻にも負けないほどに瞳を輝かせた。
 今日のカレンはベッドで大人しくしているように言われ、少しばかり気持ちもそちらに引っ張られていたが――ジョンズワートの登場により、そんなものは吹き飛んでしまった。

「あと……。最近、葉が落ち始めたから、場所によっては葉っぱだらけで掃除が大変らしいよ。いくら掃除をしても意味がないと、使用人がため息をつくぐらい」
「まあ」

 ジョンズワートが差し出した葉を受け取りながら、カレンはくすくす笑う。
 ベッドサイドに座るジョンズワートは、そんなカレンを見て目を細めていた。
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