若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 けれどジョンズワートは、伯爵家の娘で、今はデュライト公爵夫人である彼女を、本当に心配していたのだ。
 ジョンズワートは、容姿にも身分にも恵まれ、若くして公爵となった男だ。
 亡き父の跡を継いで領地を治める手腕が評価され、ゆくゆくは国の重要なポジションを任されるのでは、とも言われている。
 さらには、貴族男性に人気のあったカレンまで妻とした。
 彼女は、他の誰にもなびかなかったのに。ジョンズワートからの求婚は受けいれている。
 早くに父を亡くすという辛い目に遭ってはいるが……多くを持ち合わせているジョンズワートを妬む者は多い。
 カレンが危険な目に遭う可能性は、十分にあったのだ。

 なのにあの日は、チェストリーしかつけずに祭へ向かわせてしまった。
 ジョンズワートは、チェストリーのカレンへの忠義と、対人戦闘の腕を信じている。
 だから彼だけでも大丈夫だと思い、カレンの望みを聞いてしまった。
 もし、あと数人護衛がついていれば。きっと、カレンは誘拐などされずに済んだのだろう。
 カレンがこんな目に遭ったのは、自分の責任だ。
 公爵夫人となった彼女を、守ることができなかった。

 ジョンズワートは、15歳のころ、彼女に言われた言葉を覚えている。

「そんな殿方と一緒になったら、傷だらけになってしまいますわ」

 一度目の結婚の申し入れを断ったとき、彼女は確かにこう言った。
 彼女に怪我をさせたのも、ジョンズワートが好きな子との乗馬という状況に浮かれたせい。
 今回も、ジョンズワートの油断がこのような事態を招いた。
 
「……カレンの言う通り、だったな」

 ジョンズワートが、愚かだから。
 カレンは、10代も20代も、ひどい目に遭っている。
< 65 / 210 >

この作品をシェア

pagetop