若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 ジョンズワートはカレンを愛していた。
 彼女に嫌われているとわかっていても、自分がつけた傷を利用して結婚してしまうぐらいには。
 彼女が欲しくてたまらなくて。心はあとでもいいからと、無理にカレンを妻としたのだ。
 カレンには本当に申し訳ないことをしたし、嫌な男だと思う。
 それでも、結婚さえしてしまえば、これから彼女との仲を改善し、夫婦としてゆっくり進んでいけると思っていたのだ。

 ジョンズワートがカレンを抱いたのは、初夜の一度きり。
 できることなら彼女と心が繋がるまで待ちたかったが――この国の貴族のあいだには、式を挙げた日に初夜を済ませる慣習がある。
 絶対のルールではなかったが、ジョンズワートはカレンに触れた。
 この機会を逃したら、次はいつになるかわからない。
 ジョンズワートだって男だ。ずっと前から大好きだった人を、その腕に抱きたかった。
 慣習を理由にすれば、一度きりであっても、カレンを抱くことができる。
 我慢することができず、彼はカレンに手を出した。
 ジョンズワートに身を任せ、愛らしい声を漏らすカレンはとても可愛くて。初めて彼女と繋がったときは、心からの幸せを感じた。

 だが、それ以降は耐えた。
 カレンが大事だったから、嫌いな男に抱かれるなんて可哀相だと思い、手を出さずに過ごしたのだ。
 耐える自信がなかったから、寝室も分けて。夜にはなるべくカレンに会わないようにもした。
 ジョンズワートは、待つつもりだったのだ。
 彼女と仲のいい夫婦になれるまで。彼女が嫌々抱かれなくても済むようになるまで。何年でも。
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