若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 ある晩、カレンがジョンズワートの寝室にやってきた日は、相当ぐらついた。
 愛する人が、自分の前で下着姿になり、豊かな胸を近づけてきたのだ。
 魅惑的な香りもして、頭がくらくらした。
 ジョンズワートだって、ずっとカレンに触れたいと思っていた。
 だから、彼女もそれを望んでくれるなら、いくらでも愛したかった。
 数日前のデートで距離も縮まっていたものだから、触れてもいいのだろうか、嫌ではないのだろうか、と彼女に手を伸ばしかけた。
 しかし、そのとき彼女が口にした言葉は――

「私に、妻としての役目を果たさせてください」

 だった。
 彼女は、ジョンズワートのことを求めているわけではない。
 公爵家に嫁いだ女として夜の相手を務め、子を授かる。その役目を果たしたいと言っているのだ。
 ジョンズワートは、カレンを拒んでしまった。
 愛する人の心と体を、「役目を果たす」なんて理由のために、蹂躙したくなかったのだ。
 一度は彼女と身体を繋げているから、あの幸福感も、頭がくらくらするような快楽も、ジョンズワートは既に知っている。
 二度目に踏み切ってしまったら、そのまま歯止めがきかなくなることはわかっていた。
 ジョンズワートはきっと、頻繁に彼女を求めるようになるだろう。たとえ、心が繋がっていなかったとしても。
 
 公爵家の当主とその妻として、子を作る必要があることはわかっている。
 彼女がその役目を果たそうとするのも当然だ。
 ジョンズワートがなにもしないせいで、カレンの方から夜の営みに誘うなんていう、無理をさせてしまった。
< 67 / 210 >

この作品をシェア

pagetop