若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「カレン、僕の言う通りに」
「は、はい!」
夏も近い頃のことだった。
冬には銀世界となるこの地にも、一応だが四季はある。
寒い季節が長いため、青々とした芝生で遊べる時間は貴重だ。
15歳のジョンズワートは、カレンを乗馬に誘っていた。
二人乗りの鞍をつけて、カレンは前の席で横向きに。ジョンズワートが後ろに乗って手綱を持ち、カレンを支えながら馬に指示を出す。
カレンが元気になったら一緒に楽しみたいと思い、二人乗りの練習を重ねていたのである。
元より優秀なジョンズワート。
馬術の師匠にもお墨付きをもらい、アーネスト家からも許可を得て、伯爵家のご令嬢を自分が操る馬に乗せた。
カレンの従者の男・チェストリーも、少し離れた場所から二人を見守っている。
冬の長い国なうえ、カレンは病弱だったから、彼女が乗馬を楽しむのは初めてだった。
いつもより高い視線。風を切る心地よさ。馬が大地を蹴る振動。すぐ近くに感じる、ジョンズワートの温もり。
それら全てがカレンを高揚させた。
「すごい、すごいです! ワート様! すごく気持ちいい……!」
片手をジョンズワートの胸に置き、カレンがはしゃぐ。
ジョンズワートもまた、彼女が喜んでくれたことが嬉しくて、いつもより近い体温が恋しくて。すっかり舞い上がってしまった。
本当に、本当に嬉しかったのだ。――嬉しすぎて、習った通りのことができなくなるぐらいには。
もっと喜んで欲しくなって、ジョンズワートは馬を走らせた。
スピードは控えめだったし、走っている最中はカレンを守ることを忘れてはいなかった。
けれど、その後。
馬を停止させ、カレンをおろすときに事故が起きた。
「カレン。気を付け、て……」
「あっ…………」
高い位置で足を滑らせたカレンが前に向かって倒れていき、頭から地面に落ちてしまった。
気が緩んでいたジョンズワートは、カレンを落馬させてしまったのだ。
カレンは初めての乗馬だったというのに。ジョンズワートの指示や支えが、足りていなかった。
「は、はい!」
夏も近い頃のことだった。
冬には銀世界となるこの地にも、一応だが四季はある。
寒い季節が長いため、青々とした芝生で遊べる時間は貴重だ。
15歳のジョンズワートは、カレンを乗馬に誘っていた。
二人乗りの鞍をつけて、カレンは前の席で横向きに。ジョンズワートが後ろに乗って手綱を持ち、カレンを支えながら馬に指示を出す。
カレンが元気になったら一緒に楽しみたいと思い、二人乗りの練習を重ねていたのである。
元より優秀なジョンズワート。
馬術の師匠にもお墨付きをもらい、アーネスト家からも許可を得て、伯爵家のご令嬢を自分が操る馬に乗せた。
カレンの従者の男・チェストリーも、少し離れた場所から二人を見守っている。
冬の長い国なうえ、カレンは病弱だったから、彼女が乗馬を楽しむのは初めてだった。
いつもより高い視線。風を切る心地よさ。馬が大地を蹴る振動。すぐ近くに感じる、ジョンズワートの温もり。
それら全てがカレンを高揚させた。
「すごい、すごいです! ワート様! すごく気持ちいい……!」
片手をジョンズワートの胸に置き、カレンがはしゃぐ。
ジョンズワートもまた、彼女が喜んでくれたことが嬉しくて、いつもより近い体温が恋しくて。すっかり舞い上がってしまった。
本当に、本当に嬉しかったのだ。――嬉しすぎて、習った通りのことができなくなるぐらいには。
もっと喜んで欲しくなって、ジョンズワートは馬を走らせた。
スピードは控えめだったし、走っている最中はカレンを守ることを忘れてはいなかった。
けれど、その後。
馬を停止させ、カレンをおろすときに事故が起きた。
「カレン。気を付け、て……」
「あっ…………」
高い位置で足を滑らせたカレンが前に向かって倒れていき、頭から地面に落ちてしまった。
気が緩んでいたジョンズワートは、カレンを落馬させてしまったのだ。
カレンは初めての乗馬だったというのに。ジョンズワートの指示や支えが、足りていなかった。