若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 カレンとジョンズワートは3歳差だから、ジョンズワートが3歳だった頃の姿は知らないけれど。
 いつかに見た幼い彼の姿絵と、息子のショーンはそっくりだった。
 愛する人と息子がよく似ていることは嬉しくもあったが、不安にさせる要素でもあった。
 髪や瞳の色も、顔つきも、行動も。完全に父親から継いでいるのである。
 チェストリーが金髪だったおかげで、今のところ、自分たちの子供だということにできているが……。
 見る人が見れば、ジョンズワートの子だとすぐに気が付いてしまうだろう。
 ショーンは、デュライト公爵の正妻だった自分が生んだ、彼の長男。
 この子のことが知られたら、カレンたちの生活も、ジョンズワートの今も壊してしまう。
 自分たちのためにも、ジョンズワートの邪魔をしないためにも、ショーンのことはなんとしても隠し通さねばいけなかった。
 ショーンに対する申し訳なさ、心苦しさもあったし、公爵家に残るべきだったのでは、と思う日もある。
 けれど、もう後戻りはできない。
 ショーンの存在を隠し通したうえで、この子を心身ともに健康に育てる。
 それが、今のカレンにできることだった。


 ジョンズワートを想って姿を消したカレンであったが、この国に来てから、彼に関する情報には一切触れていない。
 もしも、彼が再婚した、サラを妻にした、なんて話を知ってしまったら、耐えられる気がしなかったからだ。
 聞かないように、知らないようにすれば、カレンの中のジョンズワートは変わらない。
 知ることさえなければ、カレンは傷つかなくていいのだ。
 幸い、複数の国境をまたいでいるからか、意図して情報を求めなければ、彼の話を聞くことはなかった。
 チェストリーもカレンの気持ちを理解しているから、ジョンズワートの話はしてこない。
 これでいいのだ。このままジョンズワートから離れて、他人として暮らしてくのだ。
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