若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
手を繋いで歩くカレンたちを、チェストリーは穏やかな気持ちで見送る。
あなたは自由になってもいいんだと、カレンに言われることもある。
けれどチェストリーは、この親子を放ってどこかへ行こうだなんて思っていなかった。
カレンに恩があるから、というのも大きな理由ではあるが……。一緒に過ごすうちに、チェストリーはショーンを自分の子のようにも思い始めていた。
自分を助けてくれた主人と、本当の息子のように可愛い幼子。
二人のために、二人がより幸せになれるように。彼はそれを大前提として動いていた。
この農村で、チェストリーは山での採集や狩りをして稼ぎを得ている。
自然の恵みを得たら、捌いたり加工したりして、近隣の店に卸しているのだ。
幼い子供がいるため、主にチェストリーが仕事をして稼ぎ、カレンは家事と育児を行いつつ、少し余裕があるときに彼の手伝いをしている。
離れた土地にいるとはいえ、流石に本名を使うわけにはいかず。今はそれぞれカレリア、チェスターと名乗っている。
偽装夫婦だと知られるわけにもいかないから、互いの呼び方も変えて。
恋愛感情はないものの、仲はよかったから、夫婦だと言えばみながそれを信じた。
このままずっと、チェストリーを自分に縛るわけにはいかない。
カレンはそう思っていたが、そばにいてくれる彼に、甘えてしまっていた。
自分だけならともかく、ショーンを健やかに育てるためには、彼の力が必要であることも事実だった。
ショーンがもう少し大きくなるまでのあいだでも――この穏やかな暮らしが続けばいいとも思っていた。
母国から、二人の男がこちらに向かっていることなど知らず。