【短編】叶うなら、もう一度あなたに会いたい〜不思議な縁〜
 耳に心地いい、低い声。
 今まで出会った人達の中で一番綺麗なんじゃないかと思うくらい、恐ろしく整った顔をした和服の男性が立っていた。

 ……本当に綺麗な顔。
 艶のある黒髪、長めの前髪からのぞく瞳には長いまつげが陰を作っている。
 軽薄そう、と言えるほど薄い唇だけど形が良く、全体的な雰囲気がこの男性を凛とした印象にさせているんだと思った。
 ……なんて、悠長に観察していたらパチリと目が合い首を傾げられてしまった。

「あっ、えっと、特に用はなくて! その、表の看板を見て気になったから入ったのですが……。予約とかがいりましたか?」
「なるほど。いや、たまにそういうお客人もいるから、別に気にする必要はないよ」
「そうでしたか。でもっ、そろそろ帰ろうかなと……」
「そう言わずとも、何かの縁だ。茶でも飲んでいくと良い」
「いえっそんな、すぐに帰りま──」

 私の言葉の途中で、男の人は踵を返してお店の奥へと向かった。
 途中でくるりとこちらを振り返ると、動かない私を見てちょいちょいと手招きをする。

「…………」

 ちょっと強引な所もあるんだなとか、むしろそれくらいじゃないと恋の相談ってのれないのかな、なんて事を一瞬考えた後。
 断るのも悪いよねと思い、「……いただきます」と私はお茶を貰うことにした。

◆◆◆◆◆

 キョロキョロしながら後ろをついていくと、お店の奥にあった部屋に通された。
 この男性──多分だけれど店主さん?──の作業部屋らしく、部屋の隅の重厚感がある机には書類などが散乱していた。

「どうぞ」

 テーブルに置かれたティーカップには、紅茶が注がれていた。
 一口飲んで、その美味しさに頬が緩む。

「……わ、美味しい!」
「こっちではあまり手に入らない茶葉でな」
「へぇ、どこの国ですか?」
「……まぁ遠い国だ。到底、気軽に行ける距離ではない」

 ふいっと顔をそらす店主さんに違和感を感じながらも、静かな時間が過ぎていった。
 どこの国だったのだろうかと本格的に気になってきた頃、チリンとどこからか鈴の音がした。
 部屋を見渡しても鈴はなく、さっきの棚が置かれているお店の方にあったのかな? と記憶を探ってみるけれど、明確な場所はわからない。

「おや。今日は二人もお客人が来るとは珍しい」

 そう言い立ち上がって部屋を出ようとする店主さんに、慌てて声をかける。

「あ、あの!」
「なんだ」
「お客さん? が来たんですよね。お邪魔すると悪いので私、本当にもう帰りま……」
「丁度いい。仕事を見ていくか?」

 これは妙案だと、自分の顎をさする店主さん。
 すっと細められた瞳に射抜かれ、数十秒後。

「…………はい、よろしくお願いします」

 断れない自分が悪いけど、想定以上な自分の意思の弱さに落ち込んでしまう。
 ──こうして私は、ずるずると帰るタイミングを失っていった。
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