【短編】叶うなら、もう一度あなたに会いたい〜不思議な縁〜
◆◆◆◆◆

「あのっ、店主さん!」
「なんだ」

 テーブルの上にあるカップを片付けている店主さんは、こちらを見ずに返事をする。

「……なんであのタイミングで、田崎さんの想い人がこのお店に来たんですか?」

 なんとも甘酸っぱい光景を見せてくれた二人は、先ほど手を繋いで初々しい恋人という感じで帰っていった。
 青木さんがあのタイミングでお店を訪れなければ、二人は付き合っていなかったかもしれない。
 不思議に思っていた事を店主さんに聞けば、そういう(えにし)だっただけのこと、と一言。
 納得がいかない私はさらに質問しようとしたけれど、店主さんは棚からあの枯れた木が入ったスノードームを手に取り、ずいっと私の目の前にさし出してきた。

「ほら、見てみろ」

 スノードームの中を見て、私は驚きに目を見張った。

「……すごい、桜が満開になってる!」
「この桜の木は『人の愛』で咲くからな」
「愛、ですか?」
「あぁ」

 柔らかな笑みを浮かべる店主さん。
 でも現実世界に、そんな不思議な桜の木があるのだろうか。
 今までテレビやネットでも、一度も聞いたことがない。

「あぁって……、んん、愛で咲くってどういうことですか?」
「ふっ、質問ばかりだなお客人」

 なんでなんで、とせがむ子供のようだと言われた気がして、恥ずかしくなり頬に熱が集まる。

「ついてくるといい。見せてやろう、《約束のもの》を」

 店主さんと会ったのは今日が初めてだ。
 だからいつそんな約束したのだろうと考えていれば、部屋を出るように促される。
 そして先ほど紅茶をいただいた、店主さんの作業部屋の扉の前に立たされた。
 店主さんはジャラジャラと束ねた鍵を取り出し、その中から一本の鍵を選ぶ。
 古びた鍵は今にも折れそうなほど心許なかったが、鍵穴に差し込みガチャリと扉を開いた。

「入ってみろ」

 この部屋はさっき入ったはずなのに。
 悪戯っ子のような顔をする店主さんに、私は首を傾げつつ言われるがまま部屋に足を踏み入れた。
 次の瞬間、目に飛び込んできた景色に息をのむ。

「ここ、は……!」

 青い空という概念はなく、何処までも暗闇が続く空間。
 でも『それ』は、暗闇の中でも淡い光を放ち鮮明に見えた。
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