【短編】叶うなら、もう一度あなたに会いたい〜不思議な縁〜
 それは、満開に咲きほこる桜の並木道。
 両側に植えられた満開の桜の木は、その先に何があるのかわからないくらいどこまでも続いている。

 驚きで声が出ない私は、ばっと後ろを振り向く。
 するとあったはずの扉が無くなっており、店主さんがポツンと立っていた。

 店主さんは手に持っていたスノードームを撫でる。
 するとガラス部分が消えて、木だけになったそれを並木道の一番手前に置いた。
 手のひらサイズの小さかった木が、みるみるうちに立派な桜の木へと育っていく。

「これっ、どうしてこんなところに桜が? しかもこんなに満開で……!」
 
 今は梅雨の季節目前の六月。
 けして桜の季節ではないのに、ここにある桜は今がピークだと言わんばかりに咲いている。
 
「──ここは、現世(うつしよ)とあの世の境目」
「境目……?」

 店主さんが何を言っているのか、理解が出来ない。
 けれどまた、ちりりと胸を焦がす感覚に目眩がしそうになる。

「味気ない道だからな、せめてもと思って桜を植えているんだ。しかしここでは、あらゆる植物が植えるとすぐに枯れてしまってな」

 思い出せそうで思い出せない。
 幼いあの日の記憶。

「けれど……。人の愛で咲いた桜だけは、こうして深く根を張ったんだ」

 店主さんは呆れ顔で……いや、愛おしい人を見るような表情で私を見つめる。
 そっと私のそばに来ると、ふわりとその良い匂いが鼻をくすぐった。
 長く綺麗な指にするりと頬を撫でられる。

「お前が言った事なのに、覚えていないとは……。俺がどれほど苦労したかわかるか? さくら」

 ──さくら。
 それは桜が嫌いになった私が避けようとしても、どうしても目に見え、音を聞いてしまうもの。
 私の名前だ。
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