新そよ風に乗って 〜憧憬〜
「自分達が、新入社員だった頃を思い出してくれ。それこそ、右も左も分からない社会に出たての頃は、まだ何も知らないことばかりで他人に迷惑を掛けていなかったか? そのフォローを誰がしてくれた。周りに居た、多くの先輩達ではなかったか? その先輩達は、時に厳しく、時には励ましてくれなかったか? 苦い想い出ばかりではなかろう。良き先輩達が居てくれたからこそ、今の自分達がある。即ち、今の会社がある。その会社を建て直そうとしている時に、部下のせいにしてばかりでどうする? せっかく会社をここまで築き上げてきた先輩達に、その恩を仇で返すのかね? 目先のことに囚われているのは、私達ではないのか? 平々凡々と暮らしてこられたのは、誰のお陰なのか。もう一度、考えてみて欲しい。ぬるま湯に浸かっていて全てのことに麻痺していた会社に一石を投じ、それに気づかせてくれた部下に、寧ろ感謝しなければならないと私は思っている。自分達が培ってきたこと、教わってきたことを顧みて欲しい。此処に集っている各役員にも、それぞれ滲むような努力をしてきた時代があったはずだ。その当時は、失敗も勿論あっただろう。だが、その失敗を誰がフォローしてくれた? 誰が蔑んだ? その蔑んだ人間は、この場に居るか? 居ないだろう。そう、紆余曲折して此処まで上り詰めてきたはず。今度は、自分達がその手を差し伸べるべきではないのかね?」
「ですが、その培ってきたことが間違っていたから、会社がこのような状態になったんじゃ……」
「そうですよ。内田専務のおっしゃるとおりです」
「だからこそ、優秀な人材の力が必要なんだ」
そう言うと、社長は高橋さんを見た。
けれど、高橋さんは微動だにしない。
「本当に、優秀かどうかは、未知数ですな」
「では、聞こう。その君達の言う、優秀とはどんな人材を指すのかね?」
今まで静かに語っていた社長が、常務を睨み付けるような眼光で見ながら問い掛けた。
「……」
「常務。此処は、私が」
森常務が黙ってしまったので、隣に座っていた内田専務が森常務の方を見て会釈をすると挙手をした。
「優秀な人材というものは、その人物を判断する人が何処に基準を置くかで変わってくるものだと思います。従って、明確な基準は無いに等しく、こうだから優秀と位置づけるものはないと思います。しかしながら、学歴優秀だからといって、それはそのまま優秀な人材かといえば、それだけで社会でも額面通り優秀かどうかは推しはかれないものです。ですが、フフッ……」
そう言い掛けた専務が、高橋さんを小馬鹿にしたように鼻で笑いながら見た。
何だか、嫌な感じ。高橋さんは、いつもこんな風に言われているのだろうか? 私だったら、針のむしろに座らされているような場所からは、一刻も早く逃げ出したい。当然、会議に出るのも憂鬱で……。
「学生の学園祭の企画の思いつきでもあるまいし、一企業を存続の危機に陥れるような企画を持ち込むような社員は、とてもじゃないですが優秀とは言えませんがね」
内田専務の言い方は、あまりにも酷かった。
酷い……あんまりだ。
いくら高橋さんが若いからといって、それとこれとは話が違う気がする。
しかし、内田専務の言い様には他の取締役達の反応も様々で、同調する取締役もいれば、それは言い過ぎているといった否定的なリアクションをする取締役も見られた。それでも、やはり同調する取締役の声が、否定的な取締役の声を上回っていたが。
「ほう。我が社の経営陣は、学生のその企画よりも落ちるということか。なるほど、それは最もな意見だ」
社長?
「社長。私は、そう言う意味で言ったのでは……」
「我が社が今年よりも去年、去年よりも一昨年は、もっと多大な経営危機に陥っていたことを忘れたのかね?」
「忘れてはいません。その時から努力してきたからこそ、今があるんです」
「よく言えるな……」
エッ……。
柏木さんが、ボソッと小声で呟いた言葉が、一瞬自分の口から出た声のように聞こえていた。
「なるほど。続けて」
社長は内田専務に対し、相づちを打つように言った。
「だから、此処で躓くわけにはいかないんです」
「ですが、その培ってきたことが間違っていたから、会社がこのような状態になったんじゃ……」
「そうですよ。内田専務のおっしゃるとおりです」
「だからこそ、優秀な人材の力が必要なんだ」
そう言うと、社長は高橋さんを見た。
けれど、高橋さんは微動だにしない。
「本当に、優秀かどうかは、未知数ですな」
「では、聞こう。その君達の言う、優秀とはどんな人材を指すのかね?」
今まで静かに語っていた社長が、常務を睨み付けるような眼光で見ながら問い掛けた。
「……」
「常務。此処は、私が」
森常務が黙ってしまったので、隣に座っていた内田専務が森常務の方を見て会釈をすると挙手をした。
「優秀な人材というものは、その人物を判断する人が何処に基準を置くかで変わってくるものだと思います。従って、明確な基準は無いに等しく、こうだから優秀と位置づけるものはないと思います。しかしながら、学歴優秀だからといって、それはそのまま優秀な人材かといえば、それだけで社会でも額面通り優秀かどうかは推しはかれないものです。ですが、フフッ……」
そう言い掛けた専務が、高橋さんを小馬鹿にしたように鼻で笑いながら見た。
何だか、嫌な感じ。高橋さんは、いつもこんな風に言われているのだろうか? 私だったら、針のむしろに座らされているような場所からは、一刻も早く逃げ出したい。当然、会議に出るのも憂鬱で……。
「学生の学園祭の企画の思いつきでもあるまいし、一企業を存続の危機に陥れるような企画を持ち込むような社員は、とてもじゃないですが優秀とは言えませんがね」
内田専務の言い方は、あまりにも酷かった。
酷い……あんまりだ。
いくら高橋さんが若いからといって、それとこれとは話が違う気がする。
しかし、内田専務の言い様には他の取締役達の反応も様々で、同調する取締役もいれば、それは言い過ぎているといった否定的なリアクションをする取締役も見られた。それでも、やはり同調する取締役の声が、否定的な取締役の声を上回っていたが。
「ほう。我が社の経営陣は、学生のその企画よりも落ちるということか。なるほど、それは最もな意見だ」
社長?
「社長。私は、そう言う意味で言ったのでは……」
「我が社が今年よりも去年、去年よりも一昨年は、もっと多大な経営危機に陥っていたことを忘れたのかね?」
「忘れてはいません。その時から努力してきたからこそ、今があるんです」
「よく言えるな……」
エッ……。
柏木さんが、ボソッと小声で呟いた言葉が、一瞬自分の口から出た声のように聞こえていた。
「なるほど。続けて」
社長は内田専務に対し、相づちを打つように言った。
「だから、此処で躓くわけにはいかないんです」