新そよ風に乗って 〜憧憬〜
もしかして、高橋さんとのことを知っているの?
「何となく……なんだけど」
何となく……か。
ここは、無難に応えておこうかな。
「好きな人は、居るけど」
「そうなんだ。いいねぇ」
いいねぇって……佐藤君って、変な人。
「それが、良くないの。片思いだから」
「片思いなの?」
「そう。私の片思いなんだ」
高橋さんは、向き合ってくれると言ってくれた。
でも、焦った私が何時まで待てばいいのか等と聞いて急かしてしまったせいで、あれからはもう何もなくて、ただの上司と部下の関係。それだけで十分なはずなのに、人間の慣れというのは恐ろしいもので、ひとときでも高橋さんと素敵な時間を過ごしてしまった私にとって、今置かれた状況はとても寂しく辛い悶々とした日々。
だんだん卑屈になってきてしまっているのが、自分でもよく分かる。
「だからなのかな」
「えっ?」
佐藤君の声が、自分の世界に入っていた私を引き戻した。
「最近、何だか暗いよね?」
「そ、そうかしら?」
驚いた。
いちばん、痛いところを突かれた気がする。
佐藤君って、他人のことを結構よく見ているのかもしれない。
「あっ……。もうこんな時間だから、帰らないと」
暗いとか言われて、居たたまれなくなっていた。
これ以上、痛いところを突かれたら、波打ち際に作られた砂の城のように、ひと波で脆く崩れ去ってしまうような気がして慌てて席を立った。
「割り勘ね」
「えっ。いいよ」
「駄目、駄目」
会計は、無理矢理割り勘にして端数の分だけは佐藤君が払うというので、その分だけはお言葉に甘えてご馳走になることにした。
こんな場面ですら、高橋さんのことを思い出してしまっている。
フルコースを高橋さんにご馳走する話……あれ、まだ実現出来ていない。
こんなことまで思い出すなんて、重症だな。
自己嫌悪に陥りながら電車に乗って、ふと隣を見ると佐藤君も一緒に乗っていた。
「あれ? 佐藤君。逆方向じゃないの?」
混んだ車内で、つり革につかまりながら隣に立っている佐藤君に尋ねた。
「えっ? だって送って行くって、さっき言ったじゃない。俺の話、聞いてなかったの?」
嘘。
「何となく……なんだけど」
何となく……か。
ここは、無難に応えておこうかな。
「好きな人は、居るけど」
「そうなんだ。いいねぇ」
いいねぇって……佐藤君って、変な人。
「それが、良くないの。片思いだから」
「片思いなの?」
「そう。私の片思いなんだ」
高橋さんは、向き合ってくれると言ってくれた。
でも、焦った私が何時まで待てばいいのか等と聞いて急かしてしまったせいで、あれからはもう何もなくて、ただの上司と部下の関係。それだけで十分なはずなのに、人間の慣れというのは恐ろしいもので、ひとときでも高橋さんと素敵な時間を過ごしてしまった私にとって、今置かれた状況はとても寂しく辛い悶々とした日々。
だんだん卑屈になってきてしまっているのが、自分でもよく分かる。
「だからなのかな」
「えっ?」
佐藤君の声が、自分の世界に入っていた私を引き戻した。
「最近、何だか暗いよね?」
「そ、そうかしら?」
驚いた。
いちばん、痛いところを突かれた気がする。
佐藤君って、他人のことを結構よく見ているのかもしれない。
「あっ……。もうこんな時間だから、帰らないと」
暗いとか言われて、居たたまれなくなっていた。
これ以上、痛いところを突かれたら、波打ち際に作られた砂の城のように、ひと波で脆く崩れ去ってしまうような気がして慌てて席を立った。
「割り勘ね」
「えっ。いいよ」
「駄目、駄目」
会計は、無理矢理割り勘にして端数の分だけは佐藤君が払うというので、その分だけはお言葉に甘えてご馳走になることにした。
こんな場面ですら、高橋さんのことを思い出してしまっている。
フルコースを高橋さんにご馳走する話……あれ、まだ実現出来ていない。
こんなことまで思い出すなんて、重症だな。
自己嫌悪に陥りながら電車に乗って、ふと隣を見ると佐藤君も一緒に乗っていた。
「あれ? 佐藤君。逆方向じゃないの?」
混んだ車内で、つり革につかまりながら隣に立っている佐藤君に尋ねた。
「えっ? だって送って行くって、さっき言ったじゃない。俺の話、聞いてなかったの?」
嘘。