新そよ風に乗って 〜憧憬〜
馬鹿みたい……。
自分本位の願望。僅かな期待から、その音が夢の世界と現実の狭間で、もしかして高橋さんかもしれないと思って、インターホンの画面を咄嗟に見るなんて。
虚しさと後悔の気持ちしか、浮かばない。
慟哭を味わうとは、正にこのこと。自ら招いた結末、現実を直視しなくてはいけないんだ。
無責任な行動を取ってしまったことを真摯に受け止めるべく、月曜日からは仕事と家の往復で、殆どと言っていいほど高橋さんとは、仕事以外の話はしなくなっていった。
書類に捺印を貰う時等、何気ないふとした拍子に手が触れてしまったりすると、慌てて謝って手を引っ込める。
高橋さんに触れてはいけないと、咄嗟に大袈裟な態度に出てしまうが、後で思い出してそっと高橋さんに触れた部分をもう1度触れてみたりする自分に、本来兼ね備えていたのかもしれない根暗な性格に嫌悪しながらも、それでも触れられたことが嬉しかったりした。
けれど、時折気が緩むと思い出してしまい、泣きそうになってグッと堪えて踏ん張っている。まるで、毎日が綱渡りのような不安定な心。
夜、家で考えたりしていると自然と涙が溢れてきて、決まってそんな時は、高橋さんの香りを握りしめて思いを託しながら、気持ちを落ち着かせようと必死になっていた。
私が犯した罪と罰。
それこそが、まさしく退転の決意。
後悔と懺悔の日々を送るには、格好の日常だった。
「それで?」
ランチタイムに社食で久しぶりにまゆみに会い、一緒にご飯を食べながら一連の経緯を白状させられていた。
私の様子がおかしいことをいち早く察していたまゆみに、ずっと急かされていたが、やっと話せる気持ちになって話している。
「多分……だから高橋さんは、私が佐藤君と一緒に居るところを見て……」
「それ、本当に一緒に居るところだけを見られたの? それだけじゃないと思うんだけど」
すかさず、まゆみが口を挟んだ。
「他に、もっと重大なことがあって、それを見られたんじゃないの?」
「そ、それは……」
「陽子?」
「そ、それが……佐藤君の胸に……額をつけたところを高橋さんに……」
「馬鹿か?」
まゆみが、声を荒げた。
「陽子。あんた、何考えてんのよ」
まゆみは、持っていたスプーンを小刻みに振りながら私を指した。
何も、言い返せなかった。
言われて、当然のことをしてしまったのだから。
「陽子だって、もし目の前でハイブリッジが他の娘にそんなことをしていたら、どーよ?」
「それは……」
そんなこと、するつもりなんてなかった。
なかったのに……。
でも、あの時は本当にどうかしていた。
今更、そんなことを言っても後の祭りで、どうにもならないけれど。
「陽子の精神状態も、分からないではないよ。でもさ……やっぱりどんな理由にせよ、ハイブリッジには謝らないと駄目だからね。逃げてばかりいても、何も始まらないんだし。まして……万が一、このまま……。ああ……っと。もし、もしもだよ? このまま、ハイブリッジと終わりになったとしても……」
「まゆみ……」
「終わり方っていうものがある。こんな中途半端な終わり方じゃ、絶対陽子のためにもよくないし、陽子の気持ちはそんな安っぽいものだったなんて、このまゆみ様が許さないからね。分かった?」
自分本位の願望。僅かな期待から、その音が夢の世界と現実の狭間で、もしかして高橋さんかもしれないと思って、インターホンの画面を咄嗟に見るなんて。
虚しさと後悔の気持ちしか、浮かばない。
慟哭を味わうとは、正にこのこと。自ら招いた結末、現実を直視しなくてはいけないんだ。
無責任な行動を取ってしまったことを真摯に受け止めるべく、月曜日からは仕事と家の往復で、殆どと言っていいほど高橋さんとは、仕事以外の話はしなくなっていった。
書類に捺印を貰う時等、何気ないふとした拍子に手が触れてしまったりすると、慌てて謝って手を引っ込める。
高橋さんに触れてはいけないと、咄嗟に大袈裟な態度に出てしまうが、後で思い出してそっと高橋さんに触れた部分をもう1度触れてみたりする自分に、本来兼ね備えていたのかもしれない根暗な性格に嫌悪しながらも、それでも触れられたことが嬉しかったりした。
けれど、時折気が緩むと思い出してしまい、泣きそうになってグッと堪えて踏ん張っている。まるで、毎日が綱渡りのような不安定な心。
夜、家で考えたりしていると自然と涙が溢れてきて、決まってそんな時は、高橋さんの香りを握りしめて思いを託しながら、気持ちを落ち着かせようと必死になっていた。
私が犯した罪と罰。
それこそが、まさしく退転の決意。
後悔と懺悔の日々を送るには、格好の日常だった。
「それで?」
ランチタイムに社食で久しぶりにまゆみに会い、一緒にご飯を食べながら一連の経緯を白状させられていた。
私の様子がおかしいことをいち早く察していたまゆみに、ずっと急かされていたが、やっと話せる気持ちになって話している。
「多分……だから高橋さんは、私が佐藤君と一緒に居るところを見て……」
「それ、本当に一緒に居るところだけを見られたの? それだけじゃないと思うんだけど」
すかさず、まゆみが口を挟んだ。
「他に、もっと重大なことがあって、それを見られたんじゃないの?」
「そ、それは……」
「陽子?」
「そ、それが……佐藤君の胸に……額をつけたところを高橋さんに……」
「馬鹿か?」
まゆみが、声を荒げた。
「陽子。あんた、何考えてんのよ」
まゆみは、持っていたスプーンを小刻みに振りながら私を指した。
何も、言い返せなかった。
言われて、当然のことをしてしまったのだから。
「陽子だって、もし目の前でハイブリッジが他の娘にそんなことをしていたら、どーよ?」
「それは……」
そんなこと、するつもりなんてなかった。
なかったのに……。
でも、あの時は本当にどうかしていた。
今更、そんなことを言っても後の祭りで、どうにもならないけれど。
「陽子の精神状態も、分からないではないよ。でもさ……やっぱりどんな理由にせよ、ハイブリッジには謝らないと駄目だからね。逃げてばかりいても、何も始まらないんだし。まして……万が一、このまま……。ああ……っと。もし、もしもだよ? このまま、ハイブリッジと終わりになったとしても……」
「まゆみ……」
「終わり方っていうものがある。こんな中途半端な終わり方じゃ、絶対陽子のためにもよくないし、陽子の気持ちはそんな安っぽいものだったなんて、このまゆみ様が許さないからね。分かった?」