新そよ風に乗って 〜憧憬〜
「すみません。ありがとうございます」
メニューを渡され見ていると、高橋さんの視線を感じたので顔を上げると、やはり高橋さんがこちらを見ていた。
「フッ……また、決められないんだろう? お任せでいいか?」
うっ。
当たっているだけに、渋々頷いた。
やっぱり、お見通しだったのね。何で、直ぐバレちゃうんだろう。
口を尖らせて悔しがる私を見て、高橋さんが笑っている。 
「マスター。それじゃ、スプモーニ1つとウーロン茶を1つ。あと、海鮮サラダと和食のお任せ2つ、お願いします」
「かしこまりました」
目を見張ってしまう。
どうして、こうテキパキと決められちゃうんだろう?
それとも、私が優柔不断で遅いだけ?
「今、明良はアメリカに行ってるんだよな」
「えっ? そうなんですか。いいですねぇ……」
3月の出張を思い出してしまう。
出張に行く前は、とても緊張していたけれど、今となってはとても良い思い出。
「旅行ですか?」
「そうならいいんだけどな。研修」
高橋さんが、煙草に火を付けた。
「お待たせしました」
マスターが、スプモーニとウーロン茶を持ってきてくれて、どちらの席に置くかを高橋さんに視線を向けると、高橋さんはスプモーニを持っているマスターの右手に向かって、私のテーブルの方を指した。
「えっ?」
「俺は、う・ん・て・ん」
マスターの顔を見ながら、高橋さんは両手でお手上げのポーズをして見せた。
「それは、仕方ありませんね」
マスターは笑いながら言うと、コースターの上にグラスを置いて行ってしまった。
高橋さんと形だけの乾杯をして、ひと口飲んでみた。
「美味しい」
嬉しくて、笑いながらいつものように高橋さんの顔を見てしまった。
ハッ! 
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